butとas soonのちょっと特殊な使い方について【バリー・リンドン】

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ついに決闘することになったレドモンドとクイン大尉。

本日はこのシーンの前半を英語の教材にとりあげます。

ピックアップした会話は上の動画の1:00からの部分。
映画本編では、はじまって22分10秒のところです。

GROGAN : Now, look here, Redmond, me boy. This is a silly business. The girl will marry Quin, mark my words. And as sure as she does, you’ll forget her. You’re but a boy and Quin is willing to consider you as such. Is that right, Quin?
CAPT. QUIN : Yes.
GROGAN : Now, Dublin’s a fine place. If you’ve a mind to ride there and see the town for a month, here’s ten guineas at your service. Will that satisfy you, Captain Quin?
CAPT. QUIN : Yes, if Mr. Barry will apologize and go to Dublin, I will consider the whole affair honourably settled.
HARRY : Say you’re sorry, Redmond. Come on. You can easily say that.
REDMOND : I’m not sorry. And I’ll not apologize. And I’d as soon go to Dublin as to hell.

グローガン「なあ、レドモンドよ。こんなことは馬鹿げてる。よく聞け、あの女はもうクインと結婚することに決まったんだ。それと同じくらい確実に、お前の想いももいつかおさまるだろう。今回のことは単なる若気の至りだよ、クインもそう見なしてくれるそうだ。ですよね、クイン?」
クイン大尉「ああ」
グローガン「さあ、ダブリンはいいところだよ。ひと月ばかりゆっくりしてくる気があるのなら、ここに好きに使っていい10ギニーがある。そういうことでいいんですね、クイン大尉?」
クイン大尉「ああ。バリー君が謝罪して、ダブリンに去るというのなら、きっぱりと、すべて水に流してもいいよ」
ハリー「レドモンド、謝れよ。ほら、ちょっと言うだけのことじゃんか」
レドモンド「悪いことしたなんて思ってない。だから謝らない。地獄に落とされでもしない限り、ダブリンになんて行くものか」

この会話のなかに、よく目にする言葉なのだけれども、使い方がちょっと変則的なものが2つあります。




目次

but の「以外」の用法について

まず最初のグローガンのセリフに but という単語が出てきます。
この but という言葉、普通は「しかし」を意味する接続語ですが、ここではちょっと変わった使い方をしていますね。

この一文です。

You’re but a boy.
(お前はまだ若い)

be but a 〜 = 〜以外の何ものでもない、〜に過ぎない

これは

you’re a boy

を強調した言い方なんですね。

you’re just a boy

または

you’re only a boy

などと言い換えてもだいたい同じような意味です。

なんで but が just や only の代わりになるのか?

それは、この but の用法は

nothing but 〜(〜以外の何ものでもない)

の、nothing が省略されていると考えるとわかりやすいんですね。

つまりこの用法での but は「しかし」ではなくて、except(〜以外の)と同じなわけです。

参考までに、いくつか nothing but の例を挙げてみます。

映画『勇気ある追跡』より
That’s nothing but a little scratch.
ほんのかすり傷だよ)

上の文章は

That’s but a little scratch.

と言い換えることができますね。

映画『オズの魔法使い』より
Naturally, when you go around picking on things weaker than you are, you’re nothing but a great, big coward!
(弱い者いじめしてたら、ただの臆病者になっちゃうわよ!)

上の後半の部分は

you’re but a great, big coward.

と言い換え可能です。

be but a 〜 の用例もいくつか挙げておきましょう。

映画『ピクニック at ハンギング・ロック』より
What we see and what we seem are but a dream. A dream within a dream.
(わたしたちの目にうつるものも、わたしたち自身も、はかない夢。夢のまた夢)

上の前半の文章は

What we see and what we seem are nothing but a dream.

と言い換えることができますね。

映画『十誡』より
Beauty is but a curse to our women
(美しさは女にとって災いでしかない

上の文章も

Beauty is nothing but a curse to our women.

と言い換え可能です。

いくつか用例をあげてみて気がついたんですけど、nothing がつかないケースは文学的で詩的なセリフに使われてるイメージがありますね。

そして、相手にただしっかり意味を伝えたい場合は nothing が付いている印象があります。

それだけに nothing が付いていないケースに nothing を付けて言い換えてみると、イカしたセリフが途端にヤボったくなりますね。

映画『バリー・リンドン』は文芸大作ですから、こういう文学的な言い回しがよく出てくるんですね。

Mr and Mrs Andrews

as soon の「むしろ」の用法について

さて、次に最後のレドモンドのセリフに出てくる as soon 〜 as にご注目ください。

こちらのセリフです。

I’d as soon go to Dublin as to hell.

この一文、ちょっと解釈が厄介なのですが、まずは as soon 〜 as の解説を先に片付けてしまいましょう。

as soon 〜 as というと、as soon as(〜するやいなや)という中学校で必ず習う定番の熟語を思い出しますね。

しかしここでの as soon 〜 as はまた別の意味を持つ熟語表現です。

as soon = むしろ

構文としては

would as soon 〜 as …

で、

… するより、むしろ〜する

という意味になります。

この構文は以下のように言い換えても同じ意味になります。

would sooner 〜 than …

また、

would just as soon 〜 as …

みたいに just が入るケースが一般的です。

語尾の as … は会話の流れでわかりきっている場合は省略されるケースが多いですね。

いくつか映画から用例をあげてみます。

映画『バートン・フィンク』より
so I’d just as soon not talk about it.
(なので、どちらかというとそれについては話したくないんです)

映画『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』より
I’d just as soon kiss a Wookiee.
([あなたとキスするくらいなら] むしろウーキーとキスするわ)

どちらも語尾の as 以降は省略されていますね。

would sooner 〜 than … の用例もいつくかあげておきます。

映画『今宵、フィッツジェラルド劇場で』より
Sooner kill you than look at you.
(あいつら、もう容赦なしね)

上の例は最初の they would が省略された形ですね。
直訳すると「見るよりむしろ殺す」です。
「非情で容赦ない」ということを比喩的に言っているセリフですね。

映画『サボテン・ブラザース』より
CONCHITA : Tonight, you are to be El Guapo’s woman.
CARMEN : I would sooner die.

コンチータ「今夜、あなたはエルワポの女になるのよ」
カルメン「むしろ死んだほうがマシだわ」

さて、それを踏まえて、この『バリー・リンドン』における下のセリフをどう解釈するか。

I’d as soon go to Dublin as to hell.

私はこのセリフを読んで、「ダブリンに行くくらいなら、むしろ地獄に落ちる」という意味だと早合点してしまいましたが、よく考えたら、それだと

I’d as soon go to hell as to Dublin.

って言わなきゃダメですよね。

なので、ここはどう解釈していいのか正直、悩むところです。

DVDの日本語字幕では単純に「ダブリンには行かない」と訳してありますが、文脈上、ダブリンに行けと言うまわりの意見に対して拒絶している場面ですから、それだけは最低限わかりきっていることなので、ぜんぜん参考になりませんよね。

ヒントになるのは、その直前に

I’m not sorry. And I’ll not apologize.
(悪いことしたなんて思ってない。だから謝らない)

というセリフがあることです。

地獄は悪いことをした人が落ちるところですよね。

なので、ここは「僕がもし悪いことをしてしまい、地獄に落とされるところで、ダブリンに行けばそれが許されるというのなら、ダブリンに行きもしよう」ということを言っているのかな、と思い、「地獄に落とされでもしない限り、ダブリンになんて行くものか」と訳してみました。

それとも単純に「ダブリンに行くなんて、地獄に落ちると同じことだ」と言いたいのかもしれません。

英語の勉強にはなりましたが、意味の解釈にはどうもモヤモヤが残る、厄介なセリフでした。

その他の注目ボキャブラリー

Look here = いいかい、あのね

me boy = my boy と同じ

mark my words = よく聞け
Listen to me と同じ意味

as such = そのように、そういうものとして

guinea = ギニー
当時の金貨の単位。ギニアで採掘された金を使っていることからこの名前がついている。
価値は1ギニーで現在の1万円〜5万円くらいだそうです。

ジョージ三世のギニー金貨

ジョージ三世の顔が刻印されている1798年当時のギニー金貨

at your service = ご自由に(お好きに)どうぞ

honourably = 高潔に、立派に、見事に
この綴りはイギリス。アメリカでは honorably と綴る。

settle = 落ち着く、おさまる、解決する

まとめ

本日は『バリー・リンドン』のセリフを参考に、but と as soon 〜 asのちょっと特殊な使い方を勉強してみました。

特殊とは言っても、よく使われる表現ですので、ご存知なかった方は、このシーンのセリフと一緒にしっかり頭に入れておきたいところです。

今日とりあげたシーンは後半にも注目すべき表現がありますので、次回の『バリー・リンドン』の回も近いころからセリフをピックアップしてみたいと思います。