「ユーモア」は英語でちょっと違う意味になる【バリー・リンドン】

よく使われるカタカナ英語で「ユーモア」という言葉がありますが、英語で humor というとちょっと日本語とは違ったニュアンスで使われることがありますね。

キューブリックの映画『バリー・リンドン』を見ていて、humor の日本語とは違ったニュアンスの使い方を発見したので、本日はそれを皆さんとシェアしたいと思います。

ピックアップしたのはこちらの、浮気現場を奥さんたちに目撃され、レドモンドが心を入れ替えるくだり。

英文を引用したのは上の動画の 0:49 からの部分。
映画本編では始まって1時間49分50秒くらいのところです。

Lady Lyndon tended to a melancholy and maudlin temper and, left alone by her husband, was rarely happy or in good humour. Now she must add jealousy to her other complaints and find rivals even among her maids.
(リンドン夫人は塞ぎがちで涙もろい性格を押さえ込んでいたが、夫に放っておかれ、なかなか幸せや愉快な気持ちになれないでいた。そして今、その不満の種に新たに嫉妬が加わることになり、小間使いさえ恋敵になってしまったのである)




tend to 名詞

本題に入る前にちょっとこちらのフレーズにもご注目ください。

Lady Lyndon tended to a melancholy and maudlin temper
(リンドン夫人は塞ぎがちで涙もろい性格を押さえ込んでいた

ここに tend to という熟語が使われています。
この tend to は、その後にくる言葉が名詞か動詞かで意味が変わってくるんですね。

通常は動詞を伴うケースが一般的に知られています。

tend to 〜(動詞)= 〜する傾向がある

映画『キル・ビル Vol.2』より
Them Japs sure know how to hold a grudge, don’t they? Or maybe you just tend to bring that out in people.
(日本人はけっこう根に持つところあるよな? いやそれとも、あんたが恨まれやすいたちなのかも)

映画『デス・プルーフ』より
You can’t get around the fact that people who carry guns tend to get shot more than people who don’t.
(銃を持っている人の方が、持っていない人より、撃たれやすい傾向にあるその事実を無視できないわよ)

一方、今回引用した『バリー・リンドン』のナレーションのように、後に名詞がくるケースは解釈を間違えやすいので、気をつけてください。

tend to 〜(名詞)= 〜を気にかける、〜を心配する、〜を構う

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』より
You’ll be excusing me, Mr. Eastwood, while I tend to William.
(イーストウッドさん、ウイリアムをみてきますので、失礼します)

つまり tend to の後に名詞がくる場合、ほぼ care と同じような意味になるんですね。

本日引用した『バリー・リンドン』のナレーション文の解釈は、「リンドン夫人は塞ぎがちで涙もろい性格だったので、それを表に出さないように気をつけていた」という風に解釈できます。

または、自分のそんな性格を「気にかけていた」と解釈してもいいと思います。

in good humor

さて、こちらが今日の本題。

Lady Lyndon(中略)was rarely happy or in good humour.
(リンドン夫人はなかなか幸せや愉快な気持ちになれなかった)

ちなみに『バリー・リンドン』はイギリス映画なので、humour と綴られていますが、アメリカ英語では humor とスペルが異なります。
このブログはアメリカ英語を中心に扱っておりますので、引用文以外は humor の方で統一しますね。

日本語で「ユーモア」というと「おかしさ」「おかしみ」の意味で使われますが、これが英語では「機嫌がいい」とか「愉快な」みたいな概念でも使われる単語なんですね。

good humor = 上機嫌、愉快な気持ち

日本語のユーモアの意味を引きずっていると解釈に迷うことも出てきますので、気をつけたいところです。

それではついでに humor を使った他の表現もご紹介します。

ill humor

good humor の good を ill に変えると、逆に「機嫌が悪い」という意味になります。

ill humor = 不機嫌

映画『マリー・アントワネット』より
I can’t repeat enough the importance for you to employ charm and patience, never ill humor, to remedy this unfortunate situation.
(何度でも繰り返しますよ、この逆境を回復するためにも、あなたは愛想よく、我慢を重ね、決して不機嫌になったりしないようにしなさいね)

Humor me

ちなみに humor は動詞になるとまた違った意味があります。
よく聞くフレーズではこんなのがありますね。

Humor me = まあここは私の言う通りにしてくださいよ

これは人に何かをお願いするときとかに使うお決まりのフレーズです。

この表現はまた別の機会に詳しく取り上げたいと思いますので、本日はちょっと言及するだけにしておきますね。

フランス語についての余談

さて最後にフランス語についての余談でも。

上に引用した動画の後半で、リンドン伯爵夫人が湯浴みをしながらフランス語の詩の朗読に耳を傾けるシーンがありますね。
ちょっと気になって、ここで朗読されている文章を調べてみました。

一時的な流行の書簡と小品集 第5巻

ここで読まれているのは、1769年にフランスで出版された『一時的な流行の書簡と小品集 第5巻(Collection d’Héroïdes et pièces fugitives)』という本だそうです。

タイトル通り、いろんな作者の作品が収められている当時の流行通俗本のようで、ここで朗読されている部分はバルナベ・ファルミアン・デュロソワ(Barnabé Farmian Durosoy)という人の書いた『感覚、6つの詩歌(Les Sens, Poeme en six chants)』という作品の『第6章 悦楽(La Jouissance)』の一節だそうです。

本も作品も作者も現在ではぜんぜん有名じゃありませんね。

私はここの部分を調べてみて、さすが細かいところまで徹底的にリアリティを追求するキューブリックだと感心しました。
この『バリー・リンドン』の時代背景を考慮に入れ、この当時に出版されたばかりの本をわざわざ調べて使っているんですね。

ここで朗読される文章にはDVDにも字幕がついていなかったので、ちょっと私が訳してみました。

惹かれあうふたりの心がその肉体でつながり合う。それらふたつの燃える映し鏡が、光を強め、反射しあう。光彩は次第に集まり、ばらけ、美しく絡み合いながら高まってゆく。そしてさらに激しく連なり同時に合体する。咲いたばかりのエナメルの花々に飾られた緑のベッドの上が、なんと壮大な眺めであろうか!

感覚、6つの詩歌 第6章 悦楽
原文

極めてフランスらしい、中身のない、ただベッドの上で男女が絡み合う様が、観念的な言葉の積み重ねでこってりと描写された文章なんですね。

この文章が、夫のレドモンドに見放され、ひとり孤独に悶々と湯浴みをするリンドン夫人の退屈な日常に流れることを考えると、鮮烈な対比が浮かび上がってきますね。

こうやって細かいところを吟味すると、キューブリックの完全主義者としてのこだわりが垣間見えてすごいな、と思います。

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