ハンス・ランダは何故ショシャナを撃たなかったのか?【イングロリアス・バスターズ】

猛禽類

今日はタランティーノの脚本についての話題からはじまります。

実は私、普通に読書として、タランティーノの脚本を読むのが大好きです。
タランティーノが書いた脚本はほとんど原書で読んでおります。

近年は映画本編より脚本の方を先に読むことを習慣にしておりまして、『イングロリアス・バスターズ』以降の映画、『ジャンゴ 繋がれざる者』や『ヘイトフルエイト』などはすべて映画本編より脚本の方を先に読みました。

これを言うと、映画を観る前に脚本を読むなんて以ての外、などと批判をしてくる人がいるので困るんです。
以前、某所の掲示板でしつこく喰い下がられて辟易したことがありました。

どんな楽しみ方をしようが人の勝手じゃありませんかねえ。

映画を観た後で脚本を読むと、もう先がわかってしまっているので、いまいちフルに楽しめないんですよね。
ところが脚本を先に読んでいても、映画は映像がつくので、「ほうほう、タランティーノはあのシーンをこんな風にビジュアル化したのか」とか、「ほうほう、あのシーンはこんな解釈になるのか」とか、「この俳優のインタープリテーション、絶妙だな」とか、味わいが変化するだけで、おもしろさのボルテージは変わらないんです。

タランティーノは私が愛する映画監督であると同時に、もっとも尊敬する作家のひとりでもあるんです。

だから私はタランティーノの両方の才能のファンとして、脚本と映画、どちらも100%楽しむために、新作は必ず脚本の方を先に読むことに決めました。

というわけで当然、このブログでタランティーノの映画を取り扱うときは、脚本の話題がちょくちょく出てくることになるわけですね。




ハンス・ランダがショシャナを撃たなかった理由

タランティーノの脚本を読むと、映画本編ではわからない細部がわかることがよくあります。

『イングロリアス・バスターズ』でまず気になるのは、冒頭のフランスの田舎のシーンの最後で、ハンス・ランダは何故ショシャナを逃したのか、という点。

ナチスの機関銃がドレイファス家を襲った直後、床下からショシャナが惨劇を逃れ、牧場を森にむかってボロボロになって逃げてゆく。
ハンス・ランダはそんなショシャナに一度は銃口を向けるんですが、すぐに気が変わって、そのまま何もせずにショシャナを見送るんですね。

このシーンです。

何故、ハンス・ランダはショシャナを撃たなかったのか?

この疑問、脚本では有難いことに、帰りの車の中で、ハンス・ランダの部下のヘルマンが私たちの代わりに聞いてくれているんです。

ちなみにこの部下のヘルマンという男は、最後のシーンでハンス・ランダと一緒に米軍にケチな投降をする通信技師と同じやつですね。

それでは本日は脚本のこの部分をピックアップして英語の勉強をしてみます。

本邦初公開? ハンス・ランダのコメント

それではタランティーノの脚本の該当の部分を引用します。
引用の後には、私が翻訳した和訳を書いておきました。

HERMAN : Why did you allow an enemy of the state to escape?
COL. LANDA : Oh, I don’t think the state is in too much danger, do you?
HERMAN : I suppose not.
COL. LANDA : I’m glad you see it my way. Besides, not putting a bullet in the back of a fifteen- year-old girl and allowing her to escape are not necessarily the same thing. She’s a young girl, no food, no shelter, no shoes, who’s just witnessed the massacre of her entire family. She may not survive the night. And after word spreads about what happened today, it’s highly unlikely she will find any willing farmers to extend her aid. If I had to guess her fate, I’d say she’ll probably be turned in by some neighbor. Or she’ll be spotted by some German soldier. Or we’ll find her body in the woods, dead from starvation or exposure. Or, perhaps, she’ll survive. She will elude capture. She will escape to America. She will move to New York City, where she will be elected President of the United States.

The S.S. colonel chuckles at his little funny.

ヘルマン「なぜ国家の敵を逃したのですか?」
ランダ「なに。我らの国家が存亡の危機に瀕したわけではないだろう?」
ヘルマン「それはそうですね」
ランダ「その点に異論はないようで嬉しいよ。それでも、15歳の少女の背中を撃たずに逃したことには疑問のようだね。なあに、あれはまだ小娘だ、食べ物もなく、身寄りもない、靴もない、おまけに家族全員が目の前で殺されたばかり。夜を明かすことなくのたれ死ぬかもしれんな。今日のあの出来事を話して、あの子に手をさしのべる百姓がいるとも思えんしね。どうせ近隣の誰かに突き出されるのがオチだ。もしくは、ドイツ軍に見つかってしまうか、空腹か野ざらしで死んだ亡骸を我々が森の中で発見するか、そんなとこだろう。それとも、ひょっとしたら、あの子は生き延びて、あらゆる追手を逃れ、アメリカに渡り、ニューヨークに移り住んで、アメリカの大統領にでも選ばれるかね」
と言って、ナチスの大佐は自らの冗談にクスッと笑った。

以上、ハンス・ランダのコメントでした。
なるほど、そんな風に考えて「ま、いっか」とばかりにやめてしまったんですね。
わりと見たまんまでしたね。

注目ボキャブラリー

それではこの英文から英語の勉強になりそうな注目のボキャブラリーを拾ってみましたので、どうか勉学の糧にしてください。

not necessarily = 必ずしも〜ない

it’s highly unlikely that 〜 = 〜は全くありそうにない、起こりそうにない

extend one’s aid = (誰)に援助の手を差し伸べる
ネットで検索できる日本の英和辞典にはこの構文では載っていなくて、 extend aid to 〜(〜に援助の手を差し伸べる)の構文で載っていますね。

turn in = (警察などに)届ける
戦争映画や犯罪映画を見てると結構よく出てくる熟語です。
このシーンの場合はナチスですが、だいたいは「警察に突き出す」意味でよく使われています。
書類やレポートなどを「提出する」という意味でもよく使われます。

spot = 見つける
spot はスポットライトのスポットです。
本来は「シミをつける」という意味。
そこから「目星をつける」「配備する」などの意味に発展して、「見つける」「見抜く」などの意味でもよく使われます。
『ルパン三世』の旧オープニングでルパンがライトにカッ!と照らされるみたいな、ああいうイメージですね。
そういえば、同じタランティーノ映画の『キル・ビル vol. 2』で、ブライドがホテルで暗殺されそうになるシーンの直前「I had been spotted(私はマークされていた)」というナレーションがありました。

elude = 逃れる

chuckle = クスッと笑う

おわりに

本日で、4回にわたって取り上げてきた『イングロリアス・バスターズ』の冒頭シーンはひと段落となります。

この冒頭シーンでさりげなく印象的なのがラパディット家3人娘のひとり、シャーロット。
セリフはないのに、表情だけで性格や状況を雄弁に語っている。

他の2人の姉妹は従順な感じなのに、このシャーロットひとりだけ鋭い目でキッ、とお父さんを睨んでいるんですね。
きっとショシャナなんかと同年代の仲のよいお友達で、お父さんの性格を知ってるからか、不安なのかもしれません。

お父さん、見るからに人がよさそうですもんね。

ちなみに脚本ではシャーロットはラパディット氏の奥さんの名前なんですけど、映画本編では奥さんいなくて、3人娘だけに変更されてますね。

まあ、最後はとりとめない話しになりましたが、本日はここらへんで。

次回からはアルド・レイン先生にご登壇いただきます。

 * * *

こちらの記事でも『イングロリアス・バスターズ』の未公開シーンの翻訳を掲載しています。
未公開シーン – ミミュー夫人のエピソード全訳【イングロリアス・バスターズ】

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。