「面倒なことになる」を英語で?【イングロリアス・バスターズ】

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本日はタランティーノの映画『イングロリアス・バスターズ』から、前回に続いてイギリス人のアーチー・ヒコックス中尉のセリフで英語の勉強をしてみたいと思います。

まずはこちらの動画をご覧ください。
前半はドイツ語で、2分50秒くらいから英語になります。

引用する英語のセリフはこちら。
上に貼った動画では3:09からの部分。
映画本編では1時間32分のところです。

There’s a special rung in hell reserved for people who waste good Scotch. Seeing as I may be rapping on the door momentarily, I must say, damn good stuff, sir. Now, about this pickle we find ourselves in. It would appear there’s only one thing left for you to do.
(地獄には、上質なスコッチウイスキーの良さがわからない愚か者のために、専用のハシゴが用意されているそうだ。俺も、まもなくあちらの扉をノックするようだから、言わせてもらうが、うん、いい酒だ。さて、われわれが陥っているこの抜き差しならない状況だが、残された道は、ただひとつ)




目次

「面倒なことになった」を英語で?

ここで私が注目したのがこちらのフレーズ。

about this pickle we find ourselves in
(われわれが陥っているこの抜き差しならない状況について)

ここで pickle という単語が出てきますよね。

pickle = ピクルス

いわゆる「キュウリの酢漬け」のことです。

「キュウリの酢漬け」がなんで「抜き差しならない状況」という意味になるのか?

これは、英語には「in a pickle」という熟語があるんですね。

in a pickle = 面倒なことになる、困ったことになる、苦境に陥る、抜き差しならない状況に陥る

語源はなんとなくわかりますよね。

酢に漬かっている状態 = 困ったことになっている、抜き差しならない状況、面倒なことになっている

私は個人的にピクルス嫌いですから、ピクルスみたいに酢に漬かるなんて、考えたくもないです。

同じタランティーノの映画『パルプ・フィクション』のマーセルス・ウォレスのセリフで、「皆、自分がワインのように歳を重ねて熟成してゆくと思っている。実際は酢になってゆく奴ばかりだ」なんてのがありますが、酢ってのは割とネガティブな描写で出てくるイメージがありますね。

さて、私がこの表現を見て思ったのは、他に似たような表現があるなあ、ということです。

最初にパッと思い出したのは、この熟語。

in hot water = 苦境に陥る、面倒なことになる、困ったことになる

同じタランティーノの映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』に、こんなセリフがありましたね。

My brother and l, we’re in hot water. Now, l need your assistance.
(弟と俺は今、面倒なことになっている。そこで、協力してほしい)

また、中学か高校で習う、よく使われる熟語で

in trouble = 面倒なことになる、困ったことになる、苦境に陥る

なんてのもありますよね。

辞書で調べてみたら、他にも同じような熟語がこんなにありました。

in distress
in a fix
in a spot
in a bind
in deep
in the soup

どれも「困ったことになる」「苦境に陥る」「面倒なことになる」などを意味する熟語です。

それではひとつひとつ、他の映画から用例をあげて解説してみたいと思います。

in a pickle

この表現は14世紀くらいからオランダで使われて、英語圏ではシェークスピアが16世紀に初めて使ったんだそうです。

他の映画からひとつ用例を挙げてみます。

映画『俺たちニュースキャスター』より
Basically the biggest story of my career, launching me to a level I’ve never known before, or saving the woman I used to have familiar relations with. This is hard! I am in a pickle!
(これまでにないほど俺のキャリアを輝かせてくれるスクープをとるか、それとも、かつて親しかった女の命をとるか。悩むな! これは困った!)

また、in a pickle は、以下のように形容詞を伴って言われることも多いようです。

in a nice pickle
in a pretty pickle
in a real pickle
in a right pickle

in hot water

文字通りには「熱いお湯の中にいる」ですね。
この表現は、自業自得、つまり自分のせいで困った状況に陥った場合に使われることが多いようです。

先ほど挙げた『フロム・ダスク・ティル・ドーン』の用例では、犯罪者が警察に追われて困っている、という状況ですから、確かに自業自得の用例ですね。

ちなみに in hot water(熱いお湯の中にいる)というと、石川五右衛門の釜茹での刑を思い出しますね。
自分のやったことが自分に返ってきて苦境に陥る、という状況としては的を得た連想かもしれません。

他の映画から用例をもうひとつ。

映画『セルピコ』より
We’re not sloppy. We’re careful. Yeah, the spicks, the niggers, we bust them. Because they operate so dumb and sloppy. they get your ass in hot water every time.
(俺たちがだらしないんじゃない。俺たちは気をつけてやってるさ。ああ。スペイン人や黒人どもだ、取り締まらないといけないのは。あいつらはバカでだらしない。いつもお前を抜き差しならない状況に陥れているじゃないか)

この用例はあまり自業自得という感じはしませんね。
あくまでもそういうニュアンスで使われることが多い、という程度に覚えておいたほうがいいかもしれません。

in distress

distress は「苦悩」「災難」などの意味。
この表現は、「精神的に苦悩している」みたいな意味でもよく使われます。

映画『ディパーテッド』より
If you’re in distress, I will help you. Here’s my card and a prescription of medication that’ll help you.
困ったことがあったら助けになりますよ。これがわたしの名刺、それから苦痛を和らげるお薬の処方箋)

in a fix

fix というのは、文字通りには「固定された」という意味。
「身動きできない」ということから、「困った状況」を意味するようになったんですね。

映画『駅馬車』より
Look, Kid, why don’t you try to escape? There’s a horse out there in the corral. Curley won’t go after you because he can’t leave the passengers in a fix like this.
(キッド、さっさと逃げたらどうなの? そこの柵に馬があるわ。乗客をこんなところに置き去りにして困らせるわけにはいかないから、どうせカーリーは追ってこないわよ)

in a spot

spot というのは「斑点(はんてん)」とか「シミ」などの意味。
そこから発展して「場所」とか「地点」の意味にもなります。
上記の fix と同じ「身動きできない」みたいな概念ですね。

この表現は、in a bad spot とか in a tough spot などのように、spot の前に形容詞を伴ってよく使われるようです。

映画『三つ数えろ』より
VIVIAN : What can you do?
PHILIP : Look, angel. I’m going to leave you in a tough spot.
VIVIAN : That’s all right with me.

ヴィヴィアン「どうするの?」
フィリップ「なあ、お嬢さん、きみをちょっと厄介なことに巻き込んでしまいそうだ」
ヴィヴィアン「わたしは構わないわよ」

in a bind

bind は「結ぶ」とか「縛る」を意味する動詞で、これが名詞になると、結んだり縛ったりするための「紐」とか「縄」の意味になります。
これもやはり縛られて「身動きできない」という概念ですね。

映画『スクール・オブ・ロック』より
Pat faxed me your rsum. It’s very impressive. We’ve never been in a bind like this before, so thank you so much.
(パットが履歴書をファックスしてくれました。とても立派なご経歴で。我が校がここまで厄介な問題を抱えたのは初めてのことなので、感謝しています)

in deep (shit)

in deep は「深みにはまっている」みたいなところからきている表現ですね。

このままの形での用例は見つかりませんでしたが、そのかわり in deep shit というスラングの形で映画によく出てくるのをたくさん見つけました。
なんと、本日この記事で紹介している熟語で一番、映画に出てくる頻度が高かったのがこの言葉です。

映画『ブルーサンダー』より
Oh, shit! You’d better hold your nose. We’re in deep shit! Let’s get the hell out!
(しまった! まずいぞ。厄介なことになった! 退散するぞ)

in the soup

文字通りには「スープの中にいる」ですね。

これは

in a stew = イライラする

という熟語があるんですが、これの類義語みたいなものですね。

stew = シチュー

グツグツ煮られている、みたいなイメージでしょう。

映画『猿の惑星(1968)』より
We’re in the soup! She’s sinking! Dodge, read the atmosphere!
大変だ! 沈むぞ! ドッジ、気圧を確認しろ!)

そういえば、スティーヴ・ブシェミ主演の『イン・ザ・スープ(In the Soup)』って映画がありましたね。
あれは売れない脚本家が、映画制作の資金調達で犯罪に巻き込まれて困ったことになるという映画でした。

以上、「面倒なことになる」「まずいことになる」「抜き差しならない状況に陥る」を意味する似たような表現をあれこれ紹介しました。

まずいことになる

その他の注目ボキャブラリー

rung = (ハシゴなどの)横木、段

rap = 軽くたたく、ノックする

momentarily = ほんの一瞬の間、すぐに

It would appear 〜 = 〜のようだ

あとがき

本日はタランティーノの映画『イングロリアス・バスターズ』のセリフから、「困った状況」を意味する pickle という言葉に注目し、似たような英語の表現を集めてみました。

しかし英語にはずいぶんと似たような表現があるものですね。