「むきになる」を英語で?【パルプ・フィクション】

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タランティーノの映画『パルプ・フィクション』の冒頭の会話で英語の勉強パート2として、本日もハニー・バニーとパンプキンの会話をとりあげます。




目次

英文の引用と和訳:ハニー・バニーとパンプキンの会話

上の動画では0:32からの部分。
映画本編では始まって2分くらいのところです。

HONEY BUNNY : You want to rob banks?
PUMPKIN : I’m not saying I wanna rob banks. I’m illustrating if we did, it’d be easier than what we’ve been doing.
HONEY BUNNY : No more liquor stores?
PUMPKIN : What’ve we been talkin’ about? Yeah, no more liquor stores. Besides, it ain’t the giggle it used to be. There’s too many foreigners own liquor stores. Vietnamese, Koreans, don’t even speak fuckin’ English. You tell’em empty out the register, they don’t know what you’re talkin’ about. They make it too personal. We keep on, one of these gook fuckers gonna make us kill him.
HONEY BUNNY : I’m not gonna kill anybody.
PUMPKIN : I don’t want to either. But they’ll probably put us in a situation where it’s us or them. And if it’s not the gooks, it’s these old fuckin’ Jews who’ve owned the store for 15 fucking generations. You got Grandpa Irving sitting behind the counter with a fucking Magnum in his hand.

ハニー・バニー「銀行強盗するの?」
パンプキン「そんなこと言ってねえよ。これまでのことと比べたら、まだ銀行の方がチョロいかもって話しだよ」
ハニー・バニー「じゃ、もう酒屋はやらないってこと?」
パンプキン「ちゃんと話し聞いてたか? ああ、もう酒屋はナシだ。それに、昔ほどオイシくないしな。酒屋なんて外人ばっかだろ。英語しゃべれねえベトナム人に韓国人。レジの金よこせって言っても、英語通じやしねえ。東洋人はムキになるしな。無理に続けりゃ、殺す羽目になる」
ハニー・バニー「殺すのはイヤだわ」
パンプキン「俺だってイヤだよ。でもあいつら、だいたい殺るか殺られるかって状況にもっていくんだよ。あと、東洋人じゃなかったらユダヤ人な。15代続いた由緒ある店のオーナーでよ。カウンターの向こうにゃアーヴィンおじさんがマグナムもって座ってるときた」

相変わらずタランティーノらしいリズムよく表現に富んだ会話ですね。

It ain’t the giggle that 〜

これは一般には使われない、この映画だけの表現のようです。
なので、スタンダードな英語のボキャブラリーは覚えられませんが、おもしろいので紹介いたします。

It ain’t the giggle it used to be.
(昔ほどオイシくない)

giggle = くすくす笑う、くすくす笑い

この場合の giggle は「愉快な」みたいな意味で使われていることは容易に受け取れますよね。

この映画はこの後もこういう、この映画だけにしかないおもしろい表現がちょくちょく出てきます。
中には、この『パルプ・フィクション』をきっかけに使われるようになった表現もあるようです。

これらの表現は直接使える英語のボキャブラリーにはなりませんが、英語のレトリックな表現の考え方みたいなものを体感する意味で勉強になると思います。

「むきになる」を英語で?

こちらの表現にも注目です。

They make it too personal.
(やつらはムキになる)

make it too personal を私は「ムキになる」と訳しましたが、辞書にはこんな熟語は載っていません。
しかしそのかわりに、こんな熟語がありました。

take it personal (personally) = ムキになる

I apologize for all the wrestling I’ve ever done. I’m sorry for all the grief I’ve ever given. I was just playing bad guy wrestler, you know. And it’s just a role. It’s not me. So, I guess Jerry just took it personally.
(プロレスの件はお詫びします。お騒がせしちゃって申し訳ありません。プロレスのヒールを演じていただけなんです、はい。演技なんです。ただジェリーがムキになっちゃっただけで)

映画『マン・オン・ザ・ムーン』より

personal は本来「個人的」の意味で知られていますが、こんな使い方もあるのですね。

上記の熟語は、動詞が take(受け取る)になっていますので、直訳すると「個人攻撃と受け取る」みたいな意味ですが、これが「被害者意識を持つ」に発展し、日本語で「ムキになる」と解釈できるのだと理解できます。

今回、引用した『パルプ・フィクション』のセリフでは、動詞に make が使われていますね。
make が使われることによって、「そういう状況にもっていく」みたいなニュアンスを感じますね。

「そういう状況」とは、次の項目がヒントになりそうです

us or them(殺るか殺られるか?)

They’ll probably put us in a situation where it’s us or them.
(あいつら、だいたい殺るか殺られるかって状況にもっていくんだよ)

このセリフにあるこちらのフレーズ。

us or them
俺たち、もしくは、奴ら

これは文脈から

「俺たちが殺られるか、奴らが殺られるか」

という意味だと理解できますよね。

通常「殺るか殺られるか」の英語訳として辞書に載っている Do or die だとか Kill or be killed などと比べると、ちょっと抽象的でイキな言い回しになる気がしますね。

つまり、前の項目と合わせると、

「やつらはムキになって、けっきょく殺るか殺られるかの状況にもっていく」

ということをパンプキンは言っているわけですね。

パルプ・フィクション パンプキンとハニー・バニー
出典:imdb

その他のボキャブラリー

rob = 強盗を働く、盗む

illustrate = 説明する

gook = 東洋人の蔑称

あとがき

今日紹介した2つの表現は、そのままの形では辞書に載っていないので、英語を勉強しているわれわれ日本人にはわかりにくいかもしれません。
しかしこういった表現でもアメリカ人はパッと耳で聞いてニュアンスが掴めるわけですから、こういう表現を吟味するのは英語という言語の「考えかた」を知るいい機会だと思います。

杓子定規に必須ボキャブラリーばかりを覚えるのもいいですが、映画を使って生きた英語を学ぶメリットはこんなところにあるのだと言えますね。