数年前に『アデル、ブルーは熱い色』というフランス映画を見ていて、目に止まった一節がありました。
最後のほうで、アデルが小学校で授業をするシーン。
ここで授業のテキストに使われている Alain Bosquet(アラン・ボスケ)の『Pas besoin(必要ない)』という詩がおもしろかったんです。
というわけで、本日はこの詩を訳してみました。
Pas besoin by Alain Bosquet の和訳
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ゾウさんのお鼻は
ピスタチオをひろうため
しゃがむ必要はありません
キリンさんの首は
お星さまを食べるため
飛ぶ必要はありません
カメレオンさんの皮膚が
緑とか青とか紫とか白とか
自由に色を変えられるのは
猛獣から隠れるため
逃げる必要はありません
カメさんの甲羅は
中に入って眠るため
冬だって
家は必要ありません
詩人の言葉は
こういうこととか
他もあれやこれやを語るため
わかる必要はありません
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Pas besoin
La trompe de l’éléphant,
c’est pour ramasser les pistaches:
pas besoin de se baisser.
Le cou de la girafe,
c’est pour brouter les astres:
pas besoin de voler.
La peau du caméléon,
verte, bleue, mauve, blanche,
selon sa volonté,
c’est pour se cacher des animaux voraces:
pas besoin de fuir.
La carapace de la tortue,
c’est pour dormir à l’intérieur,
même l’hiver:
pas besoin de maison.
Le poème du poète,
c’est pour dire tout cela
et mille et mille et mille autres choses:
pas besoin de comprendre.
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解説あるいは雑談
この『アデル、ブルーは熱い色』という映画には、ストーリーの合間合間に文学の引用がたくさんあります。
ギリシャ神話や、サルトルの実存主義、19世紀のリアリズム文学などなど。
これらの文学作品からの引用は、われわれ視聴者に、アデルの内面や置かれている状況について、様々な異なる視点を与えてくれています。
その最後にこのアラン・ボスケの『Pas besoin』がきているのは、とても深い意味があるような気がしますね。

出典:imdb
ついでにミミズの小咄の和訳
それでは最後に、同じ『アデル、ブルーは熱い色』のパーティーのシーンで話されていた小咄も、ついでに和訳しておきます。
私は初めてこれを聞いたとき、思わず吹き出してしまいました。
Que dit un ver de terre qui sort d’un plat de spaghettis.
– OUAH, QUELLE PARTOUZE!ミミズがスパゲティから出てきてひとこと。
「うひゃー、とんだ乱交パーティーだ!」
さりげなく挿入された下ネタですが、なんとなくこれも映画の内容に照らすと、深いですね。