今回はタランティーノの脚本から、『イングロリアス・バスターズ』未公開シーンで英語の勉強パート3、ということで、ショシャナがミミュー夫人と出会うシーンの後半部分をとりあげます。
和訳はこちらを参照してください。
(アンカーで該当箇所に飛ばしています)
SHOSANNA : Teach me. Teach me to run the machines that show the film. It’s only you and the negro. I know you could use some help.
MADAME MIMIEUX : I know at least six people who’ve been put up against a wall and machine-gunned for sheltering enemies of the state. I have no intention of being unlucky number seven. How long have you been in Paris?
SHOSANNA : A week and a few days.
MADAME MIMIEUX : How have you survived the curfew without capture?
SHOSANNA : I sleep on rooftops.
MADAME MIMIEUX : Again, I’m forced to admit, clever girl. How is it?
SHOSANNA : Cold.
MADAME MIMIEUX (laughs) : I can imagine.
SHOSANNA : Respectfully, no you can’t.Pause.
MADAME MIMIEUX : Fair enough.
Thinks . . .
MADAME MIMIEUX : So you can’t operate a 35mm film projector. You want me to teach you, in order to work here, in order to use my cinema as a hole to hide in. Is that correct?
SHOSANNA : Oui.
MADAME MIMIEUX : What’s your name?
SHOSANNA : Shosanna.
MADAME MIMIEUX : I’m Madame Mimieux. You may call me Madame. This is a cinema. Not a home for wayward war orphans. Having said that, what you say is true. If you were truly exceptional, I could find use for you. So, Shosanna, are you truly exceptional?
SHOSANNA : Oui, Madame.
MADAME MIMIEUX : I will be the judge of that.
up against a wall の解説
最初はちょっと余談みたいな話題ですが、2言目に up against a wall というフレーズが出てきますね。
このセリフ部分です。
I know at least six people who’ve been put up against a wall and machine-gunned for sheltering enemies of the state.
(わたしはヤツらの敵を匿って拘束され、銃殺になった者を6人は知ってるわ)
up against a wall は文字どおりには「壁に直面している」という意味で、よく「窮地に陥っている」意味で使われる熟語です。
日本語でもそのまんま窮地を「壁にぶち当たった」と言いますもんね。
THE FREE DICTIONARY に掲載されていた例文を上げておきます。
It’s when you’re up against the wall that your true character shows.
(窮地に陥ったときこそ、その人の人間性が試されるものだ)
それに対して、この『イングロリアス・バスターズ』でのセリフでは、物理的に銃殺に処されるために壁に背を向けて並ばされている状況が描写されていますね。
実際、up against a wall を映画のセリフで耳にするときは、だいたい銃殺刑か、逮捕された人が他の容疑者たちと一緒に壁に並ばされている場面ばかりです。
日常生活ではそんな経験、滅多にしないので、やはり「窮地に陥っている」ことを表すことが多いと思いますが、こと映画では、使われ方の頻度が逆転している熟語といえます。
こういう日常会話と映画のセリフで使われかたにギャップがある熟語ってのがあるんですね。
映画で英語の勉強をする際の要注意ポイントかもしれません。
ちなみにこの up against a wall というフレーズ、『イングロリアス・バスターズ』のちょっと前のシーンにも出てきましたね。
(『ドイツ系バスターズの紹介でみつけたレアな英語表現』記事の後半部分を参照)
「僭越ながら」を英語で?
まん中あたりにちょっとおもしろくて勉強になる部分があります。
ここ数日、夜は屋根の上で寝ていたというショシャナに、「屋根の上の寝心地はどうだった?」と尋ねられ、ショシャナは「寒かったです」と答える。
そのときのやりとり。
MADAME MIMIEUX : How is it?
SHOSANNA : Cold.
MADAME MIMIEUX (laughs) : I can imagine.
SHOSANNA : Respectfully, no you can’t.ミミュー夫人「(屋根の上の)寝心地はどうだった?」
ショシャナ「寒かったです」
ミミュー夫人「でしょうね(笑)」
ショシャナ「いいえ、僭越ながら、あなたの想像以上です」
can imagine で、「察しがつく」「目に浮かぶ」という意味です。
それに対して、can’t imagine で、「想像もつかない」「想像以上の」という意味になる。
タランティーノらしい、ちょっとイキな言葉のキャッチボールですね。
残念ながら、日本語にするとどうしてもヤボったくなってしまいます。
英語の勉強ポイントは Respectfully という単語。
Respectfully = つつしんで
または「つつしんで申し上げます」とも訳せます。
しかしここは目上の人の発言を軽く否定する内容なので、「僭越ながら申し上げます」と意訳した方がより正確なところです。
同じ respect が入った言い方で、
with all due respect = お言葉ですが
という熟語がありますが、ここではほぼこれと同じ意味で使われていると言っていいでしょう。
Fair enough まあ、いいでしょう
これは英会話でよく使われる重要ボキャブラリーです。
直訳すると「じゅうぶん正しい」「じゅうぶん理にかなっている」と言う意味ですね。
ポイントは、あくまでも enough(じゅうぶん)ですから、「とても正しい」じゃなくて、「納得できる程度にはまあ正しい」という点。
「少なくとも文句はない」
「妥当である」
「それだけ聞けたらじゅうぶんだ」
のようなニュアンスで使える表現です。
このシーンの場合は、日本語にすると「まあ、いいでしょう」といったところですね。
「とは言うものの」を英語で?
これも英会話でとても便利に使える表現です。
Having said that = そうは言うものの、とは言っても
それまでしゃべっていたことを踏まえて、要旨を逆転させた内容を相手に伝えるとき、枕に添えると会話がなめらかになるひと言ですね。
ひとつ前の Fair enough と一緒に、ぜひ今日は持って帰ってほしいボキャブラリーのひとつです。
I will be the judge of that の解説
これは「そのことに関しては自分で判断して決めます」という意味の決まった言い方です。
the judge = 判断する人、裁判官、審判
これも英会話で使えそうですね。
頭の部分は以下の用例のように、let me be でもいいです。
映画『パリの恋人』より
JO : It’s too ridiculous to even think about. I couldn’t do it.
DICK : Let me be the judge of that.ジョー「もう考えるのもバカバカしいわ。できません」
ディック「まあそこは僕の判断にまかせてよ」
この『イングロリアス・バスターズ』の未公開シーンでは、従業員としてちゃんと働けるかと尋ねるミミュー夫人に、ショシャナが「はい」と答える。それに対して、ミミュー夫人が言うセリフです。
つまりここは「それはわたしが判断することにするわ」という意味になります。
当たり前のはなしですが、判断するにはいったんショシャナに働いてもらわないといけませんよね。
つまりこのひと言によって、ミミュー夫人はショシャナに映画館で働くことを許可しているんです。
いっけん厳しそうで突き放したような口調の中にも、ミミュー夫人の優しさがにじみ出ているセリフですね。
その他の注目ボキャブラリー
shelter = 保護する、かばう
このシーンでは他動詞の用法ですが、自動詞で「避難する」「隠れる」という意味もあります。
名詞では「避難所」「シェルター」
have no intention of 〜 = 〜する気がない
curfew = 夜間外出禁止時間、消灯令、門限
be forced to admit = 認めざるを得ない
pause = 間
英語の映画の脚本で、俳優が演じる際、間をおいてほしいときの指示です。
in order to 〜 = 〜するために
wayward = わがままな、気まぐれな、言うことを聞かない
war orphans = 戦争孤児
exceptional = 異例、例外
find use for 〜 = 〜の利用法を見つける
あとがき
こんな感じで、今日はタランティーノの脚本を教材に、英会話に使えそうな表現をピックアップしてみました。
未公開シーンなので実際の映画にはありませんが、ぜひ想像力を働かせ、頭の中のスクリーンに映画を上映させて、ボキャブラリーを覚えてくださればと思います。
想像は自由なものですから、演じる女優はマギー・チャン(ミミュー夫人役)とメラニー・ロラン(ショシャナ役)である必要はありません。
あなたのアタマのなかではミミュー夫人は壇蜜だろうと松嶋菜々子だろうと、ショシャナは大島優子だろうと芦田愛菜(若すぎるか)だろうと、誰も文句を言いません。
そう考えると、未公開シーンも英語の勉強としては、実際のシーンがないデメリットだけでなく、むしろ想像で好きな俳優に演じさせることができる、というメリットもあるかもしれませんね。
こちらの記事も併せてどうぞ。
【イングロリアス・バスターズ】未公開シーン過去記事
ハンス・ランダは何故ショシャナを撃たなかったのか?
何気に紛らわしい beyond の使い方