ジュールスの聖書のセリフを解説してみた【パルプ・フィクション】

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本日はタランティーノの映画『パルプ・フィクション』から、ジュールスの有名な決め台詞をとりあげたいと思います。

いつものように英語のボキャブラリーを解説するだけでなく、背景的な情報にも言及しています。

また、『パルプ・フィクション』の最後の方でジュールスがこのセリフの意味合いについて自分なりの解釈をするくだりがあります。
今日はそこのところのセリフも同時に扱いたいと思います。




目次

英文の引用と和訳:ジュールスの決め台詞

まずはジュールスの決め台詞と私の和訳をご覧ください。

上に貼った動画では1:12からの部分。
映画本編では始まって20分くらいのところです。

The path of the righteous man is beset on all sides by the inequities of the selfish and the tyranny of evil men. Blessed is he who, in the name of charity and goodwill, shepherds the weak through the valley of darkness, for he is truly his brother’s keeper and the finder of lost children. And I will strike down upon thee with great vengeance and furious anger those who attempt to poison and destroy my brothers. And you will know my name is the Lord when I lay my vengeance upon thee.

正しき者の道は、悪しき者の不埒な偏見と暴虐によって行く手を阻まれる。暗闇の谷に迷う弱き者を、愛と善意によって導く者に幸いあれ。なぜならその者は、仲間の守り人であり、迷い子たちを救う者なり。そして我は仲間たちを汚し破滅をもたらす汝らを、大いなる復讐心と激しい怒りをもって打ち倒すであろう。そして復讐が遂げられしとき、汝らは我が名が主であることを知るであろう。

注目のボキャブラリー

beset = 包囲する、とり囲む、ふさぐ、悩ます、つきまとう
beset は過去形・過去分詞も同じ beset 。今回、引用したセリフでは過去分詞で受動態として使われています。

inequity = 不公平

tyranny = 専制政治、暴虐、圧政

Blessed is 〜 = 〜に幸いあれ、〜に祝福を

shepherd = (動詞)見張る、世話する、導く、案内する

thee = 汝(を)
you の古語。thou の目的格。

ジュールスの決め台詞の元ネタについて

『パルプ・フィクション』の中でジュールスがこのセリフを言う前に「旧約聖書のエゼキエル書25章17節」と引用元を言っていますが、これは嘘で、実際の旧約聖書のエゼキエル書25章17節に載っているのは最後の2行だけです。
しかも、その2行もあまり正確ではありません。

このジュールスの決め台詞の元ネタは千葉真一主演の1973年のアクション映画『ボディガード牙』のアメリカ版の冒頭に流れるナレーションだそうです。

YouTubeに映像がありました。

リンク切れになっていたらYouTubeで「Sonny Chiba The Bodyguard」か何かで検索してみてください。

また、「主人公が敵を倒す前にお決まりのセリフを言う」モチーフに関しては、やはり千葉真一主演のドラマ『影の軍団』の影響だそうです。

この組み合わせがタランティーノのセンスだと言えますね。

英文の引用と和訳:ジュールスが自分の決め台詞を解釈するシーン

『パルプ・フィクション』の最後の方に、ジュールスがこのセリフについて自分なりの解釈をしゃべるセリフがあります。

この映画のクライマックスを飾るにふさわしい素敵なセリフなので、本日はついでにこちらのセリフもとりあげたいと思います。

まずは英文の引用と私の和訳をご覧ください。
和訳にはキーワードになる部分にカッコをつけました。

上に貼った動画では6:55からの部分。
映画本編では始まって2時間27分くらいのところです。

I been sayin’ that shit for years, and if you heard it, that meant your ass. I never gave much thought to what it meant. I just thought it was some coldblooded shit to say to a motherfucker before I popped a cap in his ass. But I saw some shit this morning made me think twice. See, now I’m thinking maybe it means you’re the evil man, and I’m the righteous man, and Mr. 9-millimeter here, he’s the shepherd protecting my righteous ass in the valley of darkness. Or it could mean you’re the righteous man, and I’m the shepherd, and it’s the world that’s evil and selfish. Now, I’d like that. But that shit ain’t the truth. The truth is, you’re the weak and I’m the tyranny of evil men. But I’m tryin’, Ringo. I’m tryin’ real hard to be the shepherd.

俺はこの決まり文句を何年も使ってきた。聞いたら最後、お前は一巻の終わりってことだ。意味をよく考えたことはなかった。ただクソ野郎をぶっ殺す前の冷酷な文句にちょうどいいと思っただけだ。しかし今日は朝からいろいろあってな、この言葉のことをつらつら考えた。もしかすると、お前のような奴が「悪しき者」で、俺が「正しき者」、そしてこの銃が、暗闇の谷に迷う正しき俺を「導くモノ」なのかもしれない、ってな。それとも、ひょっとしたら、お前が「正しき者」で、俺が「導く者」で、世の中が「悪」で「不公平」という意味なのかもしれない。まあ、その考えは都合がいいよな。しかし、それは間違いなんだ。真実は、お前が「弱き者」で、俺が「悪しき者の暴虐」そのものだということ。しかし俺は諦めないぜ、リンゴよ。一生懸命努力して、「導く者」になりたいんだ。

主旨がわやりやすく通るように、かなり意訳しました。

if you heard it, that meant your ass の意味について

このフレーズ、ちょっと理解が難しい方もいるかと思いますので、解説します。

if you heard it, that meant your ass.
(これを聞いたら最後、お前は一巻の終わりってことだ)

最後の your ass は、your life と同じ意味で使われています。
さらに、この後に is over のような意味が省略されていると考えると理解しやすいと思います。

つまりパラフレーズすると、

if you heard it, that meant your life is over.

という意味のセンテンスということになります。

この説明の仕方はこちらのページを参考にさせていただきました。

『パルプ・フィクション』のジュールスとパンプキン

ジュールスとパンプキン(出典:imdb

注目のボキャブラリー

pop a cap = 銃を発射する、狙撃する
文字通りには「フタをポンと音を立てて開ける」ですが、比喩的に「銃で撃つ」意味の熟語として使われます。

think twice = よく考える、考え直す
文字通りには「二度考える」ですが、熟語としては「よく考える」「考え直す」という意味で使えます。

shepherd = (名詞)羊飼い、指導者、イエス・キリスト
前半で引用した決め台詞では動詞として出てきた言葉ですが、こちらの解釈のセリフでは名詞で出てきますので、ご注意ください。

まとめ

本日は映画『パルプ・フィクション』から、ジュールスの有名な決め台詞と、その解釈のセリフをとりあげて、解説しました。

ただカッコつけたいがために、千葉真一の映画で耳にしたとおぼしき決め台詞をしゃべっていた殺し屋が、ある朝とつぜん人生の意義に目覚め、その言葉の真の意味を考えるに至る。

そして彼は初めて、普段は人を殺していたような場面で、一生懸命になって人を救おうとするんですね。

さすがカンヌ映画祭パルムドールを受賞したほどの傑作映画のラストを飾るにふさわしい、素敵なラスト・シーンだと思います。