「古株」「そのようだな」「まったりする」を英語で?【パルプ・フィクション】

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タランティーノの映画『パルプ・フィクション』で、マーセルス・ウォレスがボクサーのブッチに、八百長試合の話しを持ちかけるシーン。

本日はこの後半部分をピックアップして英語の解説をしてみたいと思います。

英会話に役立つ表現、おもしろい表現は前回よりも、盛り沢山です。

ぜひご活用ください。




目次

英文の引用と和訳:マーセルス・ウォレスがボクサーのブッチに、八百長試合の話しを持ちかけるシーンの後半

まずは英文の引用と和訳を掲載します。
冒頭に貼った動画では1:12からの部分。
DVDでは22分20秒くらいのところです。

MARSELLUS : Besides, Butch, how many fights you think you got in you anyway? Two? Boxers don’t have an old-timers‘ day. You came close, but you never made it. And if you were gonna make it, you would have made it before now. … You my nigger?
BUTCH : Certainly appears so.
MARSELLUS : The night of the fight, you may feel a slight sting. That’s pride fuckin’ with you. Fuck pride! Pride only hurts. It never helps. You fight through that shit. ‘Cause a year from now, when you kicking it in the Caribbean, you gonna say to yourself, “Marsellus Wallace was right.”

マーセラス「そもそも、ブッチ。あと何試合できると思う? 2試合か? ボクサーに古株なんてものはない。お前はいいところまでいったが、トップはとれなかった。もしトップをとれるなら、もうとっくにとれてたはずだ。・・・俺たちは仲間だな?」
ブッチ「そのようですね」
マーセラス「試合の夜は、少し心が痛むかもな。やっかいなプライドってやつだよ。ブライドなんて糞食らえだ! プライドなんて苦しいだけさ。いいことなんて何ひとつない。そんなものに負けるんじゃない。いいか、今から1年もしたら、お前はカリブ海で悠々と過ごしながら、こう自分に呟いているさ。『マーセラス・ウォレスは正しかった』、とな」

マーセラスはブッチに八百長試合を承諾させることに成功したようですね。

old-timers

Boxers don’t have an old-timers’ day.
(ボクサーに古株は必要ない)

ここに「old timer」という表現が出てきます。

old timer = 古顔、古参

その業界や組織に古くからいるベテランみたいな意味ですね。

ボクシングは若くて体力のある人が勝つものですから、つまりマーセラスはブッチに「ボクシング業界では古株が選手として活躍できる時期などない(だから全盛期が過ぎたら諦めて引退後のことを考えろ)」ということを言っているわけです。

come close と made it

You came close, but you never made it.
(お前はいいところまでいったが、トップはとれなかった)

この短いセリフに英会話で使えそうなボキャブラリーが2つあります。

come close = もう少しで何かをする

make it = うまくやり遂げる、成功する

このセリフはボクサーに向かって話しているので、「成功する(make it)」とは、「ボクサーとしてトップに立つ」つまり「チャンピオンになる」という意味だと文脈から予想できます。

つまり「You came close」とは「もう少しでチャンピオンベルトをとるところまでいった」ということ。

恐らくブッチはチャンピオンに挑戦したことがあるか、その資格があるくらいのランキングまでは入ったことがある、ということでしょう

「you never made it」とは、「トップに立つことはなかった」つまり「チャンピオン・ベルトをとることはできなかった」という意味になると思います。

You my nigger?

You my nigger?
(俺たちは仲間だな?)

ここに「nigger」という言葉が出てきます。
この「nigger」の用法は前に以下の記事でも解説しました。

ジュールズとヴィンセントの会話から、英会話に役立ちそうなボキャブラリーや、Word around the campfire のようなタランティーノらしいおもしろい表現をピックアップして解説しています。

改めて説明しますと、「nigger」という言葉は本来「黒人」を意味する差別用語ですが、黒人自身が使用する限りにおいては、「ヤツ」とか「野郎」というニュアンス、他の英単語でいうと「buddy(仲間)」みたいな意味にあたります。

つまり「my nigger」とは「my buddy」とほぼ同じ意味だとみていいかと思います。

one’s buddy = 相棒、仲間

というわけで、「You my nigger?」で、「俺たちは仲間だな?」という意味になります。

つまりこのセリフによって、マーセラスは「俺の依頼を引き受けてくれるな?」と聞いているわけですね。

Certainly appears so

Certainly appears so.
(そのようだな)

日本語でも、質問をされて「yes」と答えるべきところで、ちょっとだけ言葉を濁したいとき「そのようだな」なんて言い方をしますよね。

これはそれに当たる英語表現という感じでしょうか。

慣用句ではありませんが、この「そのようだな」のニュアンスで「appear(〜に見える、〜と思える)」を使った言い回しはよく聞くので覚えておくといいと思います。

他の映画からも用例をひとつ。

映画『アンタッチャブル』より
JIM MALONE : My question is, are we done?
ELIOT NESS : Yes, I think we’re done.
JIM MALONE : So we sat in at a game that was above our head?
ELIOT NESS : It appears so. It appears so to Mr. Wallace.
JIM MALONE : He’s dead!

ジム・マローン「聞かせてくれ、もう手を引くのか?」
エリオット・ネス「ああ、手を引くよ」
ジム・マローン「つまり俺たちは黙って見ているしかないってことか?」
エリオット・ネス「そのようだな。ウォレスにとってもそうだろう」
ジム・マローン「彼は死んだんだ!」

どうでもいいことですが、奇しくもこの引用文にも「ウォレス」ってファミリー・ネームが出てきますね。

feel a sting

The night of the fight, you may feel a slight sting.
(試合の夜は、少し心が痛むかもな)

「sting」で「チクッと刺す」みたいな意味です。
つまり「feel a sting」で、「チクッと痛みを感じる」ですね。

ちなみに辞書を引いてみると、こんな英熟語があります。

feel the sting of conscience = 良心の呵責を感じる

今回引用したセンテンスには「conscience(良心)」みたいな目的語が入っていませんが、次の項目で説明する直後のセリフで、目的語は「pride(プライド、自尊心)」だとわかります。

fuckin’ with you

こちらのセリフには自分からは使っちゃいけない言葉が2回、違う用法で出てきます。
スラングですが、映画によく出てくるので解説いたします。

That’s pride fuckin’ with you. Fuck pride!
(やっかいなプライドってやつだよ。ブライドなんて糞食らえだ!)

最初のやつ。

fuck with 〜 = 〜にちょっかいを出す、〜を怒らせる、〜をからかう

2つ目のやつ。

fuck 〜 = screw 〜 = 〜を台無しにする、めちゃくちゃにする

映画を字幕なしで理解するためのボキャブラリーですので、くれぐれも自分では使わないよう、お気をつけください。

It never helps

こちらは英会話に必須のボキャブラリー。

Pride only hurts. It never helps.
(プライドなんて苦しいだけさ。いいことなんて何ひとつない

〜 doesn’t help = 〜は役に立たない、〜は、あっても何も意味がない

文字通りには「助けにならない」という意味ですね。

他の映画から用例をひとつ。

映画『ゴースト/ニューヨークの幻』より
MOLLY : So where is he?
ODA : I can’t see him, I can only hear him.
SAM : I’m right here.
ODA : That doesn’t help, Sam.

モリー「で、彼はどこに?」
オダ「彼の姿は見えないの。声だけが聞こえるの」
サム「僕はここだよ」
オダ「そんなこと言っても意味ないわ、サム」

fight through

You fight through that shit.
(そんなものは乗り越えてしまうんだ)

「fight through」で、文字通りには「最後まで戦う」ですが、「切り抜ける」「乗り越える」みたいな意味の熟語になります。
今回の用例のように、何か辛い出来事や感情を受け入れる、みたいな意味にも使えます。

ちょっとかっこいい表現ですね。

kick it

‘Cause a year from now, when you kicking it in the Caribbean, you gonna say to yourself, “Marsellus Wallace was right.”
(いいか、今から1年もしたら、お前はカリブ海で悠々と過ごしながら、こう自分に呟いているさ。『マーセラス・ウォレスは正しかった』ってな)

この「kick it」は文字通りには「キックする(蹴る)」ですが、スラングでいろいろな意味があります。

kick it = まったりする、リラックスする、遊びに行く、仲良くなる、ゲームを始める

今回の用例のように「まったりする」「リラックスする」「遊びに行く」みたいな使い方は映画でよく見ますので、覚えておくとよいと思います。

パルプ・フィクション

ブッチに八百長試合の話しを持ちかけるマーセルスの後ろ姿(出典:imdb

あとがき

本日はタランティーノの映画『パルプ・フィクション』から、マーセルス・ウォレスとブッチの会話を引用して、英語のボキャブラリーを解説しました。

今回はかなり密度が濃かったので、引用した英文の長さは前回と同じくらいですが、記事の文字数はほぼ倍になってしまいました。

ぜひ参考にしていただけたら幸いです。