名前がひっついて離れなくなった?【イングロリアス・バスターズ】

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本日はタランティーノの映画『イングロリアス・バスターズ』を見ていて、日本語にはない、おもしろい英語の表現が目にとまったので、それを皆さんとシェアしたいと思います。




目次

英文の引用と和訳:ランダ大佐とアルド中尉の対面シーン

引用したのは上の動画では最初から。
映画本編では始まって2時間4分33秒のところです。

COL. LANDA : So you’re “Aldo the Apache”.
LT. ALDO : So you’re “The Jew Hunter”.
COL. LANDA : I’m a detective. A damn good detective. Finding people is my specialty, so naturally, I worked for the Nazis finding people. And, yes, some of them were Jews. But “Jew Hunter”? Just a name that stuck.
UTIVICH : Well, you do have to admit, it is catchy.
COL. LANDA : Do you control the nicknames your enemies bestow on you? “Aldo the Apache” and “the Little Man”?
UTIVICH : What do you mean, “the Little Man”?
COL. LANDA : Germans’ nickname for you.
UTIVICH : The Germans’ nickname for me is “the Little Man”?
COL. LANDA : And as if to make my point, I’m a little surprised how tall you were in real life. I mean, you’re a little fellow, but not circus-midget little, as your reputation would suggest.

ランダ大佐「きみが“アルド・ザ・アパッチ”というわけか」
アルド中尉「オメエが“ユダヤ人ハンター”っちゅうわけか」
ランダ大佐「私は探偵なんだよ。腕ききの探偵だ。人探しのプロだ。その人探しの才能を買われて、ナチスで働いている。ああ、その一部は確かにユダヤ人だよ。それがよりによって“ユダヤ人ハンター”だと? そんなものは単に誰かが言い出していつしか定着してしまったアダ名だ」
ウティヴィッチ「まあ、いいじゃない、覚えやすくて」
ランダ大佐「きみは敵がアダ名をつけてくるのをいちいち制御できるかい? “アルド・ザ・アパッチ”だの、“チビ”だの」
ウティヴィッチ「“チビ”? なんだそりゃ」
ランダ大佐「ドイツ人がきみにつけたアダ名だよ」
ウティヴィッチ「ドイツ人が俺につけたあだ名が“チビ”?」
ランダ大佐「そう、私が言いたかったのはまさにそういうことだ。実際のきみは意外と丈があるんだね。まあ確かに背は低いが、噂で言われてるようなサーカスの小人ほどではない」

name stuck

最初から最後までタランティーノらしいおもしろい会話ですが、今日のところはこちらのフレーズにご注目ください。

name that stuck

stuck は、stick の過去形ですね。

stick = 突き刺す、はりつける、くっつける

stuck は過去分詞として「はまりこんで動かなくなる」「押し付けられている」などの形容詞としてもよく使われます。

この a name that stuck を直訳すると、「ひっついて離れなくなった名前」「刺さって動かなくなった名前」「押し付けられた名前」といった感じですね。

これはつまり「誰かがそう呼び出して、他の人も次々と同じように呼びはじめ、そのままずっとそう呼ばれ続けて、定着してしまった名前」という感じのことを意味する慣用句です。

日本語で同じことを言おうとしたら、文章にしないとあらわせない、おもしろい抽象表現ですね。

これは私の実体験(一部アレンジしてあります)ですが、小学校のときに、私のノートの裏表紙に「トム」という名前が書いてあったのを、クラスメートがイタズラで「ト」に濁点をつけて、「ドム」にしてしまったことがあるんです。
それを見たクラスメートが私のことを「ドム」と呼びはじめ、次々と他のクラスメートも私のことを「ドム」と呼ぶようになり、結局そのあと小中高を通して9年間「ドム」と呼ばれ続ける羽目になりました。
これなんかまさに、name stuck の典型例ですね。

他の映画からもひとつ用例を挙げてみます。

映画『ミリオンダラー・ベイビー』より
Whatever it meant, the name stuck. Maggie fought in Edinburgh and Paris, Brussels and Amsterdam. It was always mo cuishle.

意味などお構いなしに、それが呼び名になった。マギーはエディンバラやパリ、ブリュッセルやアムステルダムで戦った。いつも「モ・クシュラ」。

上の用例は、ボクサーのマギーがトレーナーにプレゼントされた「モ・クシュラ」と書かれたガウンを着てリングに上がったら、観客が彼女のことを「モ・クシュラ」の名前で声援を送るようになった、ということを言っているナレーションです。

この『イングロリアス・バスターズ』での用例は、ランダ大佐はユダヤ人に限らず人探しを専門としてナチスで働いているだけなのに、敵の誰かが「ユダヤ人ハンター」と呼びだして、いつのまにか定着してしまった、ということをこぼしているシーンですね。

kitten stuck

その他の注目ボキャブラリー

detective = 探偵

specialty = 専門、得意分野

catchy = キャッチー、人の心をとらえる、覚えやすい

bestow = 授ける、贈る、捧げる

as if = あたかも〜であるかのように

make one’s point = 〜の主張を通す
「〜の言いたいことを、うまいこと説得力のある形で表現する」という感じの意味。

midget = 小さい人

reputation = 評判、世評

suggest = 提案する、提唱する、暗示する、示唆する

あとがき

この『イングロリアス・バスターズ』の冒頭のシーンで、ランダ大佐はラパディット氏に「私は自分のアダ名が気に入っている」というセリフがありましたよね。
本日紹介したシーンのセリフの内容と正反対です。

冒頭ではラパディット氏をびびらすために、自分が「ユダヤ人ハンター」の名で呼ばれていることを誇ってみせたようですが、本当は、かなり気にくわないと感じている、というのが本音ようですね。