意味が2つある単語 sanction【イングロリアス・バスターズ】

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タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』の最後の方で、ランダ大佐がアメリカ軍にケチな投降をするシーンがありますね。

ちょっと長いですけど、本日はここのランダ大佐のセリフを引用して英語の勉強をしてみたいと思います。




目次

英文の引用と和訳:ランダ大佐がアメリカ軍に投降をする場面

映画本編では始まって2時間14分3秒のところから。

So when the military history of this night is written, it will be recorded that I was part of Operation Kino from the very beginning as a double agent. Anything I’ve done in my guise as an SS Colonel was sanctioned by the OSS as a necessary evil to establish my cover with the Germans. And it was my placement of Lieutenant Raine’s dynamite in Hitler and Goebbels’ opera box that assured their demise. By the way, that last part is actually true. I want my full military pension and benefits under my proper rank. I want to receive the Congressional Medal of Honor for my invaluable assistance in the toppling of the Third Reich. In fact, I want all the members of Operation Kino to receive the Congressional Medal of Honor. Full citizenship for myself. Well, that goes without saying. And I would like the United States of America to purchase property for me on Nantucket Island as a reward for all the countless lives I’ve saved by bringing the tyranny of the National Socialist Party to a swifter-than-imagined end. Do you have all that, sir?

それで今夜の出来事は歴史にこう記されるようにしてください。私は二重スパイとして最初からプレミア作戦のメンバーだった。私がナチの大佐として行った悪事はすべて、ドイツ人たちの目を誤魔化すためにOSSの許可のもとで行った。そしてヒトラーとゲッベルスを確実に殺すため、レイン中尉のダイナマイトを彼らのボックス席に仕掛けたのは私である、と。ちなみに最後の部分は事実です。私の階級に相応の軍人恩給と手当をいただきたい。第三帝国の壊滅に筆舌に尽くせぬ貢献したことに対する名誉勲章を授与してほしい。いや名誉勲章に関しては、プレミア作戦のメンバー全員にあげてください。米国での市民権。まあ、それは言うまでもありませんよね。それから、ナチ党の暴政を予想もつかない早さで終わらせたことで私が救った数えきれない命への褒賞として、合衆国政府にはナンタケット島に私の土地を購入していただきたいと思います。ぜんぶ書き留めましたか?

意味が2つある単語 sanction

ここのセリフで私が特に注目したいのは、こちらの sanction という単語。

sanction =
[名] 裁可、認可、制裁、処罰
[動] 裁可する、認可する、制裁処置を科す、罰する

この sanction という言葉、おおまかに意味が2つあるちょっと厄介な単語なんですね。

しかもその2つの意味「認可」と「制裁」って、ほとんど反対の意味といってもいいですよね。

sanction 2つの意味の使い分け

本日引用した『イングロリアス・バスターズ』のセリフは「認可」の方ですが、さて、この2つの意味はどう使い分けたらいいのでしょうか。

ちょっと他の映画から用例を2つばかり挙げて、検討してみます。

以下は動詞の用例。

映画『メン・イン・ブラック』より
You will dress only in attire specially sanctioned by MIB special services.
(MIBによって特に認可された制服のみを着用すること)

以下は名詞の用例。

映画『大統領の執事の涙』より
I want to make myself clear on this issue. If Congress passes sanctions against South Africa, I will be forced to veto those sanctions.
(この件に関してはハッキリ言っておきたい。もし議会が南アフリカへの経済制裁を可決するなら、私は拒否権を行使せざるを得ない)

上の用例のように、名詞の sanction は複数形で「経済制裁」の意味で使われることが多いんですね。

名詞でも単数形なら、以下の形で、肯定的な意味で使われることもありますが、用例は少ないです。
(映画では見つかりませんでした)

give sanction to = 〜を裁可する、〜を認可する

対して動詞での用例は、ほとんど「許可する」「認可する」の用例しか見つかりません。

結論としては、sanctions は名詞では複数形で「制裁」、それも主に「経済制裁」の意味。
動詞では「許可する」「認可する」と覚えておけば、ほぼ通用すると考えていいでしょう。

ただしやはり例外もあって、クリント・イーストウッド監督・主演の『アイガー・サンクション(The Eiger Sanction)』という映画などは、タイトルに名詞の単数形で Sanction という言葉が使われており、映画本編にも名詞・動詞を問わず sanction という言葉がたくさん出てきます。
この映画の場合は「暗殺」とか「制裁」の意味で使われていますね。

アイガー・サンクション

sanction の語源からみる意味の分岐

ちなみにこの sanction という言葉、語源はラテン語の sanctio(法律、法令、制裁)からきているのだそうです。

この語源はさらに根元をたどると「神聖にする」という意味があるのだそうです。
恐らく正しいことは許可し、間違ったことは正す、みたいな概念からこの2つの意味に派生したのではないかと想像できますね。

その他の注目ボキャブラリー

double agent = 二重スパイ

guise = (人を欺くための)装い、見せかけ

cover = かこつけ、隠れ蓑

demise = 崩御、死去、消滅

pension = 年金、恩給

benefits = 利益、給付、手当

proper = 適切な、ふさわしい、ちゃんとした

rank = 階級、等級

Congressional Medal of Honor = 名誉勲章
アメリカ軍における最高位の勲章。合衆国大統領から直接授与される。
「議会の名において」授与されることから Congressional(議会の)と称される。現在まで受章した人は3千名以上。日本人(日系アメリカ人)もけっこう受章している。

invaluable = 評価できないほど非常に貴重な

topple = ぐらつく、倒れる、傾く

citizenship = 市民権

it goes without saying that 〜 = 〜は言うまでもない
この熟語は上の形で使われるのが一般的です。
ランダ大佐のセリフでは本来 that 以下にくるはずの文が、前の行を修飾する形になっていますので、「that goes without saying」となっています。

property = 資産、土地

Nantucket Island = 米国マサチューセッツ州の島
観光地、リゾート地として有名ですが、私はエドガー・アラン・ポーの長編小説の主人公ゴードン・ピムの出身地、という印象が強いです。

tyranny = 専制政治、暴政、圧政

swift = 速い、迅速な

あとがき

本日はランダ大佐がケチな投降をするセリフを取り上げて英語の勉強をしてみました。

しかしこのセリフ、ランダ大佐の狡猾でさもしい性格が実によく現れていますね。

今までの自分の悪事を棚に上げ、ナチス滅亡を手助けする功績ばかりを強調し、土地と金を要求する。
それでいて、名誉勲章みたいな金のかからないことは「他の皆さんにも」とイイ人ぶるという。

レイン中尉じゃなくても額に鉤十字刻んでやりたくなるってもんです。