分詞構文?倒置法? captain as he is 構文の謎【バリー・リンドン】

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アントワーヌ・ヴァトー『田舎の踊り』

舞台は18世紀半ばのヨーロッパ。

イギリスがフランスと戦争をおっぱじめることになり、各地で兵をかき集めるため、アイルランドの片田舎・ブレイディ村にもイギリス軍がやってきます。

そのイギリス軍を率いてきたのがジョン・クイン大尉。

この大尉がなんと物語の主人公、レドモンド・バリー青年の初恋の相手・ノラ嬢と恋仲になってしまうんですね。

当然、レドモンドは嫉妬に狂うわけです。

ダンスフェスティバルの帰り、レドモンドはノラを家に送りながら、その怒りをノラにぶつけます。

その一連のシーンがこちら。

本日はこのなかの会話から英語の勉強をしてみます。

ピックアプしたのは、上の動画の2:03の部分。
映画本編では、はじまって10分24秒のところ。

REDMOND : If I ever should meet him again, you will find out who is the best man of the two. I’ll fight him sword or pistol, captain as he is.
NORA : Redmond don’t be so silly.
REDMOND : I mean it, Nora.
NORA : But Captain Quin is already known as a valiant soldier. It is mighty well of you to fight farmers’ boys, but to fight an Englishman is a very different matter.
REDMOND : Best have your English man take you home.
NORA : Redmond!

レドモンド「次にヤツと会ったら、どちらが優れた男か、はっきりさせてやる。大尉がなんだ、剣でも銃でも受けて立つぞ」
ノラ「レドモンド、バカ言わないで」
レドモンド「僕は本気だ、ノラ」
ノラ「だって、クイン大尉はもう立派な軍人なのよ。農家の坊やと喧嘩するならまだしも、ひとかどのイギリス人を相手にするのはワケが違うのよ」
レドモンド「きみのイギリス人に送ってもらえばいいさ」
ノラ「レドモンド!」




目次

captain as he is 構文とは

この会話のなかから、私が本日の注目の一文として選んだのはこちら。

captain as he is

この文章、普通に訳すと

「彼が大尉であろうと」

ちょっと乱暴な言い方で訳すと

「大尉だかなんだか知らないが」

という意味ですね。

この

補語+as+主語+述語

「〜であるにも関わらず」

という意味になります。
ドラマチックな文語的表現としてよく耳にする構文です。

映画を見ていても以下のようにけっこう用例が見つかります。

映画『ジャンゴ 繋がれざる者』より
Well, gentlemen, as you can see, talented as they are, no doubt, in the kitchen, from time to time, adult supervision is required
(ま、皆さん、ご覧のとおり、有能な者たちではありますが、うちの厨房では、ときどき、大人が監督してやらないといけないもので)

映画『明日に向って撃て!』
Fellas, bad as they are, banks are better than trains. They don’t move. They stay put. You know the money’s in there.
(お前ら、景気は悪いが、それでも銀行は列車よりはマシだぜ。動かねえしな。いつも同じ場所に建ってる。金もあるじゃねえか)

映画『巴里のアメリカ人』より
JERRY : Is it as simple as that?
HENRI : Strange as it seems, yes

ジェリー「そんな単純なものか?」
アンリ「おかしなことだが、そうなんだよ」

映画『パルプ・フィクション』より
But painful as it may be, ability don’t last.
(しかし、つらいことかもしれないが、能力はいつか衰えるものだ)

映画『バートン・フィンク』より
Strange as it may seem, Charlie, I write about people like you…the working stiff, the common man.
奇妙に思えるかもしれないが、チャーリー、僕が書いているのは君のような人たちなんだ。働く人間。一般市民)

なぜこの構文がそういう意味になるのかというと、これには2つの説があるんですね。

その1:though が as になって倒置された説

as には「〜にも関わらず」という譲歩の用法があるんですね。

as は通常「〜として」と訳されますが、他にもたくさんの意味で使われます。

英英辞書を確認すると、何項目かに

as = though(〜にも関わらず)

の記述があり、この構文が例文として掲載されているんですね。

つまりこの『バリー・リンドン』の用例でいうと

Though he is captain
   ↓
Captain though he is
   ↓
Captain as he is

と変化していったものと解釈できます。

なので、逆に

Captain as he is

Captain though he is

または

Though he is captain

などと言い換え可能なんですね。

as を挟んで「補語」と「主語+述語」がひっくり返って captain が文頭にきているのは、補語の要素を倒置によってドラマチックに強調している面があるのだと言えます。

その2:分詞構文の最初の部分が省略されている説

また、この構文は別の説として、分詞構文の最初の現在分詞が省略されているのだ、と解釈する向きもあります。

例えば、先にあげた『明日に向って撃て!』の例でいくと

Bad as they are, banks are better than trains.

Being as bad as they are, banks are better than trains.

の最初の being as が省略されたものだ、というのです。

しかしこれだと、

captain as he is

のように補語の部分が名詞だと同じように解釈できませんが、元の文章が

being captain as he is

で、ここから being が省略されたという見方もありうるので、一応つじつまは合いますね。

それに、being as bad as they are から being だけが省略された

As bad as they are, banks are better than trains.

という言い方は何百年も前からあるようなので、ここからさらに最初の as が省略されて今の形になったのだと考えると、こちらの説の方が正しいようにも思えます。

このあたりの解釈は英語の専門家でも諸説分かれているので、どちらが正解なのか、なかなかはっきりとした結論は出ませんね。

とにかく英語の勉強をしているわれわれとしては、この構文で「〜にも関わらず」と覚えておけばよいと思います。

その他の注目ボキャブラリー

find out = 知る、わかる

don’t be so silly = ふざけるな、バカ言うな
so がついていない don’t be silly の形の方がよく耳にします。

I mean it = 私は本気です

valiant = 勇ましい、立派な

mighty = 力強い、素晴らしい

different matter = 別問題

had better do と had best do の違いについて

ちょっとこの一文を項目を設けて解説したいと思います。

Best have your English man take you home.
(きみのイギリス人に送ってもらえばいいさ)

これは、

You had best have your English man take you home.

の、最初の you had が省略されている形です。

have best 〜 = 〜するのが一番良い

had better(〜したほうがよい)というよく使われる熟語がありますが、had best はこれを最上級にしたものです。

had better は普通によく使われますが、had best はたまにしか使われませんよね。

この2つはどう使い分けるのか?

正しい考え方としては、2つの選択肢がある場合は、had better、3つ以上の選択肢がある場合は had best を使用するべきなんですね。

ところが、実際にはネイティブでもこの違いを意識している人はほとんどいないようで、ただ had better と言うところを、もっと強く言いたい場合に had best を使うようです。

いい例がこの『バリー・リンドン』のセリフで、文脈ではレドモンドは「僕よりもクイン大尉のほうに送ってもらえばいいじゃないか」と言っているので、選択肢は2つなのですが、レドモンドはここで had best を使っていますよね。

つまりレドモンドは嫉妬のあまり、単に、より強い表現を使っている、ということなんですね。

おわりに

本日は映画『バリー・リンドン』の台詞から、captain as he is 構文の謎に迫ってみました。

しかしこの構文、文語的表現ということですが、それにしてはけっこう映画の会話で使われていますね。
上に5つほど例文をあげましたが、他にもたくさんの映画で用例がありました。

カジュアルな会話ではほとんど聞かないので、あちらの脚本家が好んで使うちょっとかっこいい言い回しなのかもしれません。