dispel repel expel compel impel propel 似たような言葉ありすぎ!【バリー・リンドン】

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まあ本日の記事はごゆるりと、音楽でも聴きながらお読みくださいませ。

似たような単語って覚えにくいですよね。

キューブリックの映画『バリー・リンドン』を見ていて、前から似たような形で意味も似ている複数の言葉があって、混乱していたのを思い出したので、この機会にまとめて覚えてしまおうかと思ってこの記事を書くことにしました。

本日の記事は、似たような単語を接辞の意味を調べることで、整理して理解してゆく参考にもなると思います。




目次

英文の引用と和訳

引用するのは以下のナレーション部分。
映画本編では始まって1時間32分15秒のところ。

Five years in the army, and some considerable experience of the world, had by now dispelled any of those romantic notions regarding love with which Barry commenced life. And he had it in mind, as many gentlemen had done before him to marry a woman of fortune and condition.

もともと色恋沙汰で故郷を飛び出したバリーだが、5年間の兵役やその後の様々な遍歴は、彼を恋愛からすっかり遠ざけてきた。そして多くの紳士たちが財産と地位のある女性と結婚してゆくのを見るにつけて、彼も同じようなことを望むようになっていた。

本日の記事はここに出てくる dispel(遠ざける)という単語からはじまります。

似たような単語 -pel

このナレーションに出てくるこの言葉。

dispel = 追い散らす、払いのける、晴らす

これに似たような言葉で、これらの単語があります。

repel = 追い払う、撃退する、はねつける
expel = 追い払う、吐き出す、免職する

これらみんな、「何かから何かを遠ざける(追い払う)」みたいな意味の言葉です。

また、これと逆の意味で、これらの言葉があります。

compel = 強いる、無理にさせる、強要する
impel = 駆り立てる、強いてさせる、押しやる
propel = 推進する、駆り立てる、進ませる

これらはみんな、「何かに何かを近づける(勧める、やらせる)」みたいな意味の言葉です。

みんな見た目も意味も似てますよね。

この6つの言葉はどれも語尾が -pel で終わります。

-pel は、「動かす」を意味するラテン語 pellere からきていて、「押し付ける」とか「引っ張る」などを意味する接辞なのだそうです。

この -pel のアタマに、dis- だの re- だの ex- だの com- だの im- だの pro- だのの接辞がくっついて、「遠ざける」や「近づける」の意味になっているんですね。

ではひとつひとつ、いつものように他の映画から用例などを挙げつつ、接辞の説明をしながら解説していきますね。

dispel

まずは dispel から。

dispel = 追い散らす、払いのける、晴らす

この dis- は「分離」を意味する接辞だそうです。

例)
distance = 距離、隔たり
dismiss = 解散させる
disappear = 消える

他の映画から用例をひとつ。

映画『ゴースト/ニューヨークの幻』より
As our loved one enters eternal life, let us remember that love, too, is eternal, that although we will miss him, our love will light the void and dispel the darkness.
(愛する人が死んで永遠の命を手にすれば、その愛も永遠となり、例え彼が恋しくても、わたしたちの愛は心の隙間を埋め、暗闇を遠ざけるでしょう)

上の用例は牧師さんのセリフですね。

こんな感じで、「暗闇を遠ざける」とか「恋愛から遠ざかる」など、観念的な意味で使われることが多い単語です。
(物理的な意味でも使えます)

repel

repel = 追い払う、撃退する、はねつける

re- は「再び」を意味する接辞というイメージが強いですが、「離れる」の意味もあります。

例)
resign = 辞める
retreat = 退却、避難所
retire = 引退する

この repel は悪いものとか敵対するものに対して使うことが多いです。

他の映画から用例をふたつ。

映画『エド・ウッド』より
BELA LUGOSI : The women preferred the traditional monsters.
ED WOOD : The women?
BELA LUGOSI : The pure horror, it both repels and attracts them.

ベラ・ルゴシ「女は伝統的な怪物が好きなんだよ」
エド・ウッド「女は?」
ベラ・ルゴシ「真の恐怖は、おじ気させもすれば、魅了もするのだ」

映画『シャイニング』より
Construction started in 1907. It was finished in 1909. The site’s supposed to be on an Indian burial ground. They actually had to repel a few Indian attacks as they were building it.
(建設は1907年からはじまって、1909年に完成されました。敷地は元インディアンの墓地だったそうです。実際、建設中にインディアンからの襲撃を追い払わなければなりませんでした)

この repel という動詞は、このままの単語よりも、repellant という形容詞の形でよく使われます。

repellant = はねつける、寄せつけない、鼻持ちならない

「虫除けスプレー」を英語で insect repellant とか言ったりしますね。

repellant の用例も2つ挙げます。
両方ともタランティーノの映画ですね。

映画『ジャッキー・ブラウン』より
Damn! I bet you come in here on a Saturday night
you need nigger repellant to keep them motherfuckers off your ass.
(へえ! 土曜の夜にここにやって来ようもんなら、ゲス野郎どもを追い払う、男除けスプレーが必要だろう)

上の会話は主人公のジャッキーが仲間のオデールを初めて行きつけのバーに連れてきたときの、オデールのセリフです。

映画『ジャンゴ 繋がれざる者』より
Well, apparently, that’s where your wife is and that’s the repellant gentlemen who owns her.
(そうだね、きみの奥さんはここにいて、この鼻持ちならない紳士が彼女の雇い主のようだね)

上のセリフは、生き別れた奥さんを探しているジャンゴに、ついに奥さんを見つけたシュルツ博士が言っているセリフです。
奥さんを取り戻すためには、この現在の雇い主をはねつけないといけない、みたいな含みがある使い方ですね。

expel

expel = 追い払う、吐き出す、免職する

ex- は「〜の外側に」を意味する接辞です。

例)
exit = 出口、退出
exclude = 除外する、締め出す
except = 〜以外、〜の他は、〜を除いては

この接辞 ex- が意味する通り、中にあるものを外側に追いやる、みたいな概念でよく使われます。

映画『エクソシスト』より
It is the Lord who expels you!
(神こそがお前を追い払う!)

上の用例は悪魔に取り憑かれた少女に向かって、神父さんが悪魔祓いをしているシーンのセリフですね。

映画『リオ・グランデの砦』より
Jeff was boyishly ashamed when he was expelled from West Point
(ジェフは陸軍士官学校を退学になった時、少年らしく恥ずかしがってたよ)

どの用例も中にあるモノを外に出す、という意味で使われていますね。

ゴヤ『聖フランシスコ・ボルハによる悪魔祓い』

さて、次の3つは「何かに何かを近づける(進める、やらせる)」を意味する似たような単語群。

compel

今日の記事で紹介する6つの単語で、一番よく使われるのがこの単語です。
映画でも一番よく耳にします。

compel = 強いる、無理にさせる、強要する

com- は「〜と共に」「〜の近くに」などを意味する接辞。

例)
combination = 結合、組み合わせ
company = 仲間、会社
communication = 伝達、通信、交信

映画『サウンド・オブ・ミュージック』より
Coo-coo
Coo-coo
Regretfully they tell us
But firmly they compel us
To say goodbye
To you

カッコー
カッコー
残念そうに鳴いています
でも強制的に言い聞かせています
皆さんに「おやすみなさい」
しなさいって

上の用例は『So Long Farewell』というミュージカル曲の歌詞の一部です。

映画『トゥルー・ロマンス』より
CLARENCE : There ain’t gonna be a need to search me. All you’re gonna find is this right here.
BORIS : What compelled you to bring that along?
CLARENCE : I guess the same thing that compelled you guys to bring heavy artillery to a business meeting.

クラレンス「俺を調べる必要はないよ。どうせ見つかるのはここにあるコレだけさ」
ボリス「そんなもの、なんで持ってくる必要があったんだ?」
クラレンス「たぶんアンタがこの商談の場にそんなごっつい飛び道具を持ってきてる理由と同じじゃないかな」

用例をみても「強制的にやらせる」のニュアンスが強い単語ですね。

impel

impel = 駆り立てる、強いてさせる、押しやる

接辞 im- は in- の変化したもので、「〜の中に」「〜の方に」を意味します。

例)
impose = 押し付ける、強いる、出しゃばる
impulse = 衝動、刺激、欲求
immigrate = 移住する

映画『時計じかけのオレンジ』より
You see, ladies and gentlemen, our subject is impelled towards the good by paradoxically being impelled towards evil.
(おわかりですか、皆さん、われわれの被験者は、逆説的に悪行へ促すことにより、善行へと促されることになるのです)

内側を意味する接辞 im- が示す通り「気持ち」や「意思」など精神面にスポットが当たっている感じの単語ですね。

propel

propel = 推進する、駆り立てる、進ませる

pro- は「〜の代わりに」「〜賛成の」「〜ひいきの」を意味する接辞。

例)
promotion = 助長、奨励、販売促進
proportion = 割合、釣り合い、調和
proclaim = 宣言する、公布する

この propel は「ずんずん前に突き進む」みたいな概念が強い言葉のようです。

映画『トレインスポッティング』より
Propelling ourselves with longing towards the day that it would all go wrong.
(間違いだらけの日々に向かってまっしぐらに自分自身を駆り立てていたんだ)

この propel から派生した単語で、日本語にもなっている「プロペラ(propeller)」がありますね。
プロペラは回転することで船や飛行機に推進力をもたらす機器ですから、propel の概念ともつながりますね。

 * * *

以上、本日は『バリー・リンドン』のナレーションに出てきた dispel という単語をきっかけに、似たような単語を6つご紹介しました。

こうしてみると、使い分けの明確な違いというのはあったりなかったりで、要はその言葉のどの概念が強調されているかによる、という気がしますね。

その他のボキャブラリー

considerable = かなりの、考慮すべき、重要な

notions = 考え、観念、思いつき

regarding = 〜に関する
形は動詞の現在分詞ですが、前置詞としての用法です。

commence = 〜を開始する

have it in mind to = 〜しようと思っている

condition = 状態、状況、条件
ここでは「社会的地位」の意味です。

あとがき

さて、話しは変わりますが、冒頭に貼った音楽はシューベルトのピアノ三重奏第2番です。
言わずと知れた、『バリー・リンドン』の後半でとても印象的に使われている名曲ですね。

監督のキューブリックは映画『バリー・リンドン』で、18世紀のヨーロッパの雰囲気をなるべく忠実に表現するために、恐ろしいまでのこだわりをもってこの映画を作りましたが(室内の照明に蝋燭だけを使って撮影したエピソードは有名ですね)、音楽だけは数十年ほど後の時代のものが使われているんですね。

というのも、『バリー・リンドン』は軽快で明るい古典派音楽全盛の時代ですから、あまりロマンチックな音楽がないんですね。
だからできるだけこの時代に近くて映画に合うロマンチックな音楽というと、ちょうど古典派とロマン派の境目に位置するシューベルトが最適だったんじゃないかと思います。

私はクラシック音楽ではシューベルトが一番好きなので、この『バリー・リンドン』の選曲は嬉しいですね。

『バリー・リンドン』で使われたシューベルトの曲では、ピアノ三重奏第2番もいいですが、こちらのドイツ舞曲1番もなかなか素敵な音楽です。
(バリーの息子の誕生日会などでかかる曲ですね)

コメント

  1. 匿名 より:

    僕もちょうどこのあたりでモヤモヤしていたんですが、非常に分かりやすくまとめられていて助かりました。