bearとendureの違いなど【バリー・リンドン】乱闘シーンの英語を解説

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レドモンド・バリーとブリンドン子爵の乱闘シーン

出典:imdb

キューブリックの映画『バリー・リンドン』後半の見せ場のひとつといえば、レドモンド・バリーとブリンドン子爵の乱闘シーンを思い浮かべる方もいらっしゃると思います。

本日はこの場面の直前にあるブリンドン子爵の長セリフから、英会話に役立ちそうなボキャブラリーをピックアップして解説してみたいと思います。




目次

英文テキストと和訳:レドモンドとブリンドンの乱闘シーン直前部分

それではまず、セリフの引用と私の和訳を掲載いたします。

上の動画では 1:53 からの部分。
映画本編では始まって2時間13分20秒くらいのところ。

LORD BULLINGDON : Don’t you think he fits my shoes very well, Your Ladyship? … Dear child, what a pity it is I’m not dead, for your sake. The Lyndons would then have a worthy representative and enjoy all the benefits of the illustrious blood of the Barrys of Barryville. Would they not Mr. Redmond Barry?
LADY LYNDON : From the way I love this child, you ought to know how I would’ve loved his elder brother. Had he proved worthy of any mother’s affection.
LORD BULLINGDON : Madam! I have borne as long as mortal could endure the ill-treatment of the insolent Irish upstart whom you’ve taken to your bed. It is not only the lowness of his birth and the general brutality of his manners which disgusts me. But the shameful nature of his conduct toward Your Ladyship, his brutal and ungentle manlike behaviour, his open infidelity, his shameless robberies and swindling of my property, and yours. And as I cannot personally chastise this lowbred ruffian, and as I cannot bear to witness his treatment of you and loathe his horrible society as if it were the plague! I have decided to leave my home and never return. At least, during his detested life or during my own.

ブリンドン子爵「私の靴は、彼には合わないようですね、ご婦人。……坊ちゃん、私が死んでなくてお気の毒さま。そしたらリンドン家は相応しい後継を持てて、バリー村のバリー家の名誉ある血筋が利益を貪ることができるだろうに。そうでしょう、レドモンド・バリーさん?」
リンドン夫人「この子を愛すると同じように、私はその兄も愛してきました。ご理解なさい。彼だって母の愛に値する子ですよ」
ブリンドン子爵「奥様! あなたが寝室に連れ込んだ横暴なアイルランドの成り上がり者の仕打ちに、これまで耐えられる限り耐えてきました。鼻持ちならない生まれの卑しさや、態度の乱暴さだけのことにとどまらず。厚顔無恥なご婦人の扱いぶり、乱暴で紳士らしからぬふるまい、あからさまな不貞行為、私やあなたの財産の私物化・使い込み。しかし、私がこの手でこの育ちの悪いゴロツキを罰することもできませんし、あなたへの酷い扱いをこれ以上、見ているのも我慢できませんし、伝染病のように広がるロクでもない奴の人間関係にも虫唾が走ります! 私は家を出てゆき、二度と戻らぬことに決めました。少なくとも、憎むべき奴の、もしくは私の、命ある限り」

こうして訳してみるとなかなか辛辣な言葉が並んでいますね。
血気盛んなレドモンドが思わず手を出してしまったのも無理ありません。

bear と endure の違いについて

まずはこちらの一文をご一読ください。

I have borne as long as mortal could endure the ill-treatment of the insolent Irish upstart whom you’ve taken to your bed.
(あなたが寝室に連れ込んだ横暴なアイルランドの成り上がり者の仕打ちに、これまで耐えられる限り耐えてきました)

borne は bear(我慢する、耐える)の過去分詞です。

ここに endure(我慢する)という単語も出てきますね。

どちらも同じ「我慢する」という意味ですが、この二つの単語はどう違うのでしょうか。

bear についての解説

本日引用したセリフの後の方でこの bear という単語はもう一度出てきます。

I cannot bear to witness his treatment of you
(あなたへの酷い扱いをこれ以上、見ているのは我慢できません)

bear という言葉は「我慢する」以外にも、これらの意味があります。

bear = 産む(出産する)、(実を)結ぶ、(責任などを)負う、耐える

bear は本来「運ぶ」が語源だそうです。

つまり「重い荷物を持って耐える」みたいなイメージから「(実を)結ぶ」とか「(責任などを)負う」「我慢する」などの意味に発展したんですね。

「産む(出産する)」の意味は「実を結ぶ」から「妊娠している」への発展でしょう。

「重い荷物」とは、「厄介な問題」でもあれば、「重大な責任」でもあり、また「とても貴重なもの」でもあると考えれば、どの意味にも通じますよね。

endure との違いですが、bear は、少し古臭い英語表現とのことです。
『バリー・リンドン』は中世ヨーロッパが舞台の映画なので、ちょっと古臭い表現が出てくるんですね。

現在でも bear は「我慢する」意味で使われますが、その場合、精神的なことより、どちらかというと、物理的な(肉体的な)重荷に対して使われることが多いようです。

endure についての解説

次に endure の解説。

endure は分解して接辞の意味に迫ってみるとわかりやすい単語です。

endure の dure は、「長く続く」という意味。
duration(期間)なんて単語がありますよね。

en– は、「〜の中に」を表す接辞。

なので、文字通り、endure は、bear と比べると、「長い期間つづく苦難に耐え忍ぶ」、というニュアンスが入っているそうです。

確かに本日引用した『バリー・リンドン』の用例を見ても、ブリンドン子爵が子供の頃からレドモンドの仕打ちに耐えてきた長い年月を鑑みると、しっくりくるものがあります。

the shameful nature of his conduct の解説

ここの一節に出てくる nature と conduct という単語の使い方に注目です。

the shameful nature of his conduct toward Your Ladyship
(厚顔無恥なご婦人の扱い)

ここでの nature は「自然」じゃなくて「本性」「天性」「性質」「本質」などの意味です。

conduct は conductor(指揮者)の「コンダクト」ですね。

この conduct は名詞として「品行」「ふるまい」などの意味になります。

これは何故かというと、conduct という単語は動詞として「指揮する」「指導する」「導く」などの意味があり、これは「自分自身を指導する(導く)」という概念にもつながるので「行う」「ふるまう」という意味にもなるわけです。

だから名詞として「品行」「ふるまい」という意味になるんですね。

上の引用文では意訳しましたけれども、the shameful nature of his conduct toward Your Ladyship を直訳すると、「ご婦人に対する彼の扱いの恥知らずな本性」といった感じでしょうか。

loathe と detest の違いについて

あともうひと組、似たような単語が出てきます。

as I cannot bear to witness his treatment of you and loathe his horrible society as if it were the plague! I have decided to leave my home and never return. At least, during his detested life or during my own.
(あなたへの酷い扱いをこれ以上、見ているのも我慢できませんし、伝染病のように広がるロクでもない奴の人間関係にも虫唾が走ります! 私は家を出てゆき、二度と戻らぬことに決めました。少なくとも、憎むべき奴の、もしくは私の、命ある限り)

ここに loathe(酷く嫌い)detest(酷く嫌い)という単語が出てきますね。

この2つは hate(嫌い)よりも強い表現になります。

この2つの単語はどう違うのか?
言い換えると、どちらの「酷く嫌い」が「より酷く嫌い」なのか、という疑問がわいてきます。

ネットを検索してみると、「ほぼ同じくらいの嫌いをあらわす」と説明しているところもあれば、detest より loathe の方が強い、と説明しているところもあります。

この『バリー・リンドン』のセリフを吟味しても、ただ違う言葉を使って表現に変化をつけているだけで、とくに微妙なニュアンスの違いによる使い分けはしていないことがみてとれます。

結論としては、若干 loathe の方が detest より強いニュアンスはあるものの、概ねこの2つの単語に明らかな違いはなく、特にどちらとどちらを入れ替えて問題はない、ということになりそうです。

その他のボキャブラリー解説

for one’s sake = 〜のために、〜に免じて
辞書によると for your sake は「しばしば相手を見下すニュアンス」と書いてあります。
今回の用例では言葉が向けられているブライアンに対しては見下しているというよりはちょっと皮肉っぽいニュアンスですが、間接的にレドモンドを見下している心理が込められている気がしますね。

representative = 代表する、代表的な

illustrious = 著名な、輝かしい

affection = 愛情

mortal = 死ぬべき運命の = 人間
フランス語の mort(死)が語源。
「人は皆いつかは死ぬもの」ですから、mortal で、「人間」という意味にもなる。
古臭い文学的な表現と言えます。

insolent = 横柄な、無礼な

upstart = 成り上がり者

infidelity = 不信心、不貞な行為、浮気

swindle = (お金を)騙し取る、巻き上げる

chastise = 厳しく罰する、折檻する

lowbred = 育ちの悪い、ガラの悪い

ruffian = 悪党、ごろつき、やくざ者

plague = 疫病、伝染病、ペスト

あとがき

本日はキューブリックの『バリー・リンドン』から、ブリンドン子爵の長セリフを引用して英語の勉強をしてみました。
こういう文芸作品の長セリフは難しいボキャブラリーが多く出てきて勉強になりますね。

ちなみにこの後の乱闘シーンでは、仲裁に入ってすべってころぶ貴族の描写が好きです。

この『バリー・リンドン』の少し前のシーンで、ブリンドン子爵がレドモンド・バリーに生意気な態度をとり、バリーがその罰にブリンドン子爵のお尻を鞭で叩いて折檻するシーンがありました。
そこでのナレーションにこんな一文があったのを覚えているでしょうか。

Barry believed, and not without some reason, that it had been a declaration of war against him by Bullingdon from the start and that the evil consequences that ensued were entirely of Bullingdon’s creating.
(ブリンドンは初めからバリーに敵意を抱いていた、そして後に訪れる最悪の結末はすべてブリンドンのせいだったと、バリーは確かな確信を持って信じていた)

つまりレドモンド・バリーは、自分がやったことはすべて正当な理由があってのことで、ブリンドン子爵の主張は何もかも言いがかりにすぎず、自分は悪くないと思っていた、ということなんですね。

こんな風に、はたからみると明らかに間違っているのに、自分はまったくその自覚がない、みたいな人、今でもよく見かけますよね。

英語だけじゃなくて、人間性の勉強にも大いに考えさせられる文芸大作だといえます。