「人っ子ひとりいない」「くどくど言う」を英語で?【バリー・リンドン】

シェアする

前回までのあらすじ。

決闘によってクイン大尉を銃で撃ち殺してしまったレドモンド。

いとこのハリーはレドモンドに「警察に逮捕される前にダブリンに逃げたほうがいい」とすすめます。

心配なのはレドモンドのお母さん。
かわいい息子が逮捕されるのはいやだけど、今まで親元を離れたことのないレドモンドをひとりダブリンにやるのも気が気じゃありません。

本日はそんなレドモンドと、そのお母さんと、いとこのハリーの会話を引用して英語の勉強をしてみます。

映画本編でははじまって26分40秒のところです。

MOTHER : Wouldn’t he be as safe here as in Dublin?
HARRY : I wish that were true, Aunt Belle. You know I do. But I’m afraid the bailiffs may be already on their way from Kilwangan. Now, Dublin is five days ride away from here. There’s not a soul who’ll know him there. I don’t want to harp on unpleasant matters, you know that, but you do know what can happen to him if he’s taken.
REDMOND : I’ll be all right. I’ll be all right in Dublin, Mother.

レドモンドの母「わざわざダブリンなんて行くよりウチにいた方が安心じゃないかい」
ハリー「そうだったらいいよね、ベルおばさん、本当に。でも、もうすでに執行官がキルワンゲンからこちらに向かってきているかもしれないんだよ。ほら、ダブリンはここから馬で5日くらい離れてるし、彼を知っている人はひとりもいない。縁起でもないことをくどくど言うのは嫌だけどさ、ね、もし彼が逮捕されでもしたらどうなるか、わかってるでしょ」
レドモンド「大丈夫だよ、ダブリンで元気にしてるよ、お母さん」




目次

not a soul 人っ子ひとりいない

まずはこの一文のこの表現にご注目ください。

There’s not a soul who’ll know him there.
(彼を知ってる人はひとりもいない

not a soul = 人っ子ひとりいない

soul というと「魂」を意味する単語ですが、今回の例文のように、特定の熟語表現で「人」を意味することがあります。

いわゆる not などの否定をともなって、「誰もいない」「誰にも〜するな」などの内容を表す場合に使われます。

anyone とか anybody などを使うよりちょっと詩的な印象ですね。

いくつか他の映画から例文をあげてみましょう。

映画『アマデウス』より
I cannot leave alone a soul in pain
(苦しんでいる者をひとりとしてほっておくわけにはいきません

上の例は、自殺未遂をした人に対して、神父さんが放ったセリフです。
神父さんのセリフなので、「苦しむ魂を」と訳してもいいですね。
a soul が「人」を表すこともある、その背後のニュアンスがうかがえる用例だと言えます。

映画『明日に向って撃て!』より
I never met a soul more affable than you, Butch, or faster than the Kid
(お前ほど気のいいやつには会ったことないよ、ブッチ。それに、キッドほどの早撃ちにもな)

上は西部劇のセリフなので、詩的というより、ちょっとイキな言い方になりますね。

あと、not a soul でよく聞く表現が

Don’t tell a soul
(誰にも言うな)

という物言い。

これも

Don’t tell anyone

と言うよりちょっと詩的な感じになりますね。

この表現が出てくる映画ですぐ私の頭に浮かぶのが、伝説のロックバンド、ザ・フーの同名アルバムを映画化したロック・ミュージカル『トミー』のなかの『1951/What About The Boy?』という曲。

映画『トミー』より

You didn’t hear it
You didn’t see it
You never heard it, not a word of it
You won’t say nothing to no-one
Never tell a soul what you know is the Truth!

お前は何も聞かなかった
お前は何も見なかった
まったく何にも聞かなかった、ひと言も
お前は誰に何も言うことはない
本当のことは絶対、誰にも言うな

殺人を見られてしまった両親が、子供のトミーに固く口止めをしているミュージカルシーンです。
Don’t の部分が Never になっているのは、かなり強い命令口調になっているためです。

以下の動画の2:11からの歌詞。
名曲です。

まあこんな感じで、not a soul、映画にもよく出てくる表現ですから、覚えておいて損はないと思います。

harp on くどくど言う

さて次に注目したいのがこの一行。

I don’t want to harp on unpleasant matters
(縁起でもないことをくどくど言いたくない)

harp on = くどくど言う、くどくど繰り返し話す

これは口語なので文章では使いません。

harp とは、カタカナ英語にもなっている「ハープ」いわゆる「竪琴」のことです。
これが動詞になって、「くどくど言う」を意味するのはなんとなくニュアンス的にわかる気がしますね。

この harp on の手前に keep をつけて keep harping on のようにすると、下記の用例のように「くどくど言い続ける」となり、さらにくどくど感がアップします。

映画『波止場』より
Why do you keep harping on that for?
(なんだって、そんなことをくどくど言い続けるんだよ?)

また、harp on 〜 は「〜をくどくど言う」ですが、「〜についてくどくど言う」と言いたい場合は、以下のように前置詞 about を伴って表現します。

harp on about 〜 = 〜についてくどくど言う、〜についてくどくど繰り返し話す

こちらは他の映画で用例が見つからなかったので、辞書サイトThe Idiomsから例文を引用します。

I don’t like people that harp on about the past, it is better to live in the present.
(過去のことについてくどくど言う人は好きじゃないな。今を生きるべきだよ)

ちなみに「くどくど言う」の他の言い方で go on and on というのもあります。

go on and on = くどくど言う

こちらの表現のほうがよく耳にするので、ついでに覚えておくといいかもしれません。

いくつか映画から用例を挙げておきます。

映画『大災難P.T.A.』より
I could tolerate any insurance seminar! For days I could sit there and listen to them go on and on with a big smile on my face!
(保険セミナーだったらガマンできる! 何日もそこに座って彼らがくどくど言うのを満面の笑顔で聞くことだってできるよ!)

TVドラマ『チアーズ』シーズン2/第12話より
I’m terribly sorry. I went on and on like a ninny.
(本当にすいません。私ったらバカみたいにくどくどしゃべっちゃって

下の引用はちょっとお下品なセリフですので、18歳未満のかた、もしくはお下品な表現に免疫のないかたは読み飛ばしてください。

映画『フォー・ルームス』より
Well, it’s hard to stop talking about something that’s so huge. I mean, I could go on and on about his cock.
(いやー、あんなデカいモノを見せられたら、つい話したくなっちゃうわね。もう彼のチン●についてならいつまでもしゃべれるわ

※和訳は一部、伏字にさせていただきました。

ハープと乙女たちの絵

その他の注目ボキャブラリー

bailiffs = (法の)執行官

on one’s way = 途中

unpleasant = 不快な

matter = 問題、事項

be taken = 連れていかれる、逮捕される、つかまる

あとがき

本日は『バリー・リンドン』から、「no a soul(人っ子ひとりいない)」「harp on(くどくど言う)」2つの表現をご紹介しました。

ちなみにこのあたりの一連のシーンで私が気になるのは、レドモンドは初恋の相手ノラ嬢をとりあってクイン大尉と決闘したのに、一度もノラ嬢のことに言及していないことです。

婚約者を殺してまでまたよりを戻せるとも思っていないでしょうが、何かひと言でもノラ嬢について思うところがセリフにあると、この辺の人間模様がもっと風通しがよく感じられたんじゃないかと思いますが、キューブリックってこういう「あれっ」と思うようなアッサリとした省略のしかたをよくやりますよね。
とくに原作と比べるとこの特徴をすごく感じます。

さて次回の『バリー・リンドン』から、いよいよレドモンドの長い人生の旅がはじまります。

英語以外にもたくさん学ぶべきところがありそうですね。