「あの顔、あなたに見せたかった」を英語で?【バリー・リンドン】

シェアする

日本語でよく「あの時のあの人の顔、見せてやりたかったわ」とか「あの時のあいつの顔、見ものだったぜ」とか「あの時のあの人の顔と言ったら!」みたいな言い方がありますよね。

キューブリックの映画『バリー・リンドン』を見ていて、英語にもそういう表現があることに気がついたので、本日はそれを皆さんとシェアしたいと思います。

結構あちこちの映画で耳にする表現なので、覚えておいて損はないと思います。




目次

英文の引用と和訳

引用するのは以下の部分。
バリーが息子のブライアンに自分の作りバナシの武勇伝を語って聞かせるシーン。
映画の中でも2回ほど繰り返される印象的な長セリフですね。

映画本編が始まって1時間58分くらいのところです。

We crept up on their fort, and I jumped over the wall first. My fellows jumped after me. And you should have seen the look on the Frenchman’s faces when 23 rampaging he-devils, sword and pistol, cut and thrust, pellmell came tumbling into their fort. In three minutes we left as many Artillery men’s heads as there were cannon balls. Later that day we were visited by our noble Prince Henry. “Who is the man who has done this?” I stepped forward. “How many heads was it,” says he, “that you cut off?” “Nineteen,” says I, “besides wounding several.” Well, I’ll be blessed, if he didn’t burst into tears. “Noble, noble fellow,” he said. “Here is nineteen golden guineas for you, one for each head that you cut off.”

我らの隊はそっと敵の砦に近づき、まず私が壁を飛び越えた。部下が私に続いた。その時のフランス兵たちの顔と言ったら。砦の中は、23人の勇猛な乱暴者たちが、剣と銃を手に雪崩れ込み、切った張ったの大混乱。3分も経つと、そこに転がる砲弾の数に及ぶほどの砲兵の生首を残し、我らはその場を後にした。その日のうちに、我らは偉大なるヘンリー王子の訪問を受けた。「これは誰の手柄か?」私は一歩前に進み出た。「お前が挙げた首級の数は…」殿下が尋ねられた。「いくつであるか?」「19です」私は言った。「それ以外に、数人に傷を負わせました」そこで殿下が目に涙を溢れさせたのは当然のこと。「あっぱれ、あっぱれな戦士よ」殿下は言われた。「お前に19ギニーの金貨を授ける。首級ひとつに一枚づつだ」

you should have seen the look on someone’s face

本日、注目したいのはこちらの一節。
難しい単語がたくさん出てきますが、ポイントは最初の主節の部分です。

you should have seen the look on the Frenchman’s faces when 23 rampaging he-devils, sword and pistol, cut and thrust, pellmell came tumbling into their fort.
(その時のフランス兵たちの顔、お前にも見せてやりたかったよ、23人の勇猛な乱暴者たちが、剣と銃を持って雪崩れ込み、切った張ったの大混乱)

rampage = 暴れ回る
he-devil = 残酷な男
thrust = 押す、突く、刺す
pellmell = 乱雑に、めちゃくちゃに
tumble = 転がり込む

この主節の部分に以下の慣用句がありますね。

You should have seen the look on someone’s face

これは日本語にすると

あの時のあいつの顔、見ものだったぜ
あの時のあの人の顔、見せてやりたかったわ
あの時のあの人の顔と言ったら!

みたいな言い回しに相当する表現だといえます。

the look on someone’s face の様々な用法

この熟語のコアは何より the look on someone’s face(〜の表情)の部分で、それ以外はいろんな言い回しが見つかりますね。

ちょっと違った言い回しで、同じようなニュアンスで使われている用例を他の映画からも探してみました。

ドラマ『FARGO/ファーゴ』S1E9
I worked this guy for six months, Lester. Six months. Can you imagine the number of sewer mouths I put my hands in? The gallons of human spit? Plus the $100,000 bounty down the toilet, but, still, the look on his face when I pulled the gun, classic, huh?
(俺は6ヶ月間こいつをカタにはめる準備をしてきたんだ、レスター。6ヶ月だぞ。想像できるか? 俺がどれだけ汚い口の中に手を突っ込んできたのか。大量の唾を浴びてきたか。それに加えて、10万ドルの報酬がパアだ。でもまあ、俺が銃を取り出した時のやつの顔、見ものだったな、傑作だよ、なあ?)

上の用例は classic(一流の、古典の)という単語を伴って同じようなニュアンスを表現していますね。

映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』より
He doesn’t know I’m comin’. But wait till you see the look on his face when I walk through the door.
(やつは俺が来ることをまだ知らん。俺がやってきた時のやつの顔、見ものだぜ

上の用例は wait till(〜したら驚くぞ、〜をお楽しみに)という熟語を伴ってやはり同じようなニュアンスを表現しています。

リスニングの際の決め手は、とにかく the look on someone’s face(〜の表情)という言い回しが出てきたら、私の体感ですが、半分以上のケースはこのニュアンスのことを言っていると捉えていいと思います。

英会話で使用する場合は

You should have seen the look on his (her) face.

の形で覚えておくといいと思います。

「あなたに見せたかった」を英語で

ついでに You should have seen の部分も、「〜、あなたに見せたかった」という言い回しに使えそうですね。
この部分も英会話用に頭にとめておくといいと思います。

You should have seen 〜 = 〜、あなたにも見せたかった

映画『エクソシスト』より
Me and Sharon played a game in the backyard. And we had a picnic down by the river. Mom, you should have seen it! This man came along on this beautiful gray horse.
(わたしとシャロンと裏庭でゲームをしたの。それから河下までピクニックしたのよ。ママにも見せたかったわ! 男の人が美しいグレーの馬に乗っていたのよ)

ムンクの叫び

その他のボキャブラリー

crept = creep(這う、腹ばいに進む、忍び寄る)の過去形

creep up on = こっそり近づく、忍び寄る

fort = 砦、城砦、要塞
fortress の略語ですが、fort より fortress の方が大きい砦をイメージする、という見方もあるようです。
ちなみに黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』の英語タイトルは『Hidden Fortress』といいます。

artillery = 大砲、砲弾、砲兵隊

be blessed = 驚く
be surprised の古い表現。
I’ll be blessed if 〜 は、直訳すると「〜なら驚くところだ」となり、「当然〜だ」という意味になります。

burst into tears = わっと泣きだす

guinea = ギニー
当時の金貨の単位。ギニアで採掘された金を使っていることからこの名前がついている。
価値は1ギニーで現在の1万円〜5万円くらいだそうです。

ジョージ三世のギニー金貨

ジョージ三世の顔が刻印されている1798年当時のギニー金貨

あとがき

本日はキューブリックの映画『バリー・リンドン』の、バリーが息子のブライアンに自分の架空の武勇伝を語って聞かせるセリフから、ボキャブラリーを勉強してみました。

このバリーの武勇伝は劇中2回ほど語られます。

1度目はバリーとブライアンの幸せな日々の描写として。

2度目はブライアンが死ぬ直前、この話しをもう一度聞かせて欲しいと頼まれ、バリーが涙ながらに語る場面。
こちらは観ている我々も涙なしにはいられない悲しいシーンです。

こちらの動画2:45からの部分。

お話しに入る前の会話も心にしみます。
ブライアンはお父さんとお母さんに、「ふたりとも喧嘩しないで仲良くしてね。そしたら、僕たち天国でまた会えるから」と頼みます。
ところが、バリーと奥さんのリンドン夫人は喧嘩はしなかったものの、結局、のちに別れてしまうことになるんですね。
果たして、バリーは天国でブライアンと会えたのでしょうか。

そんなことを考えていると、この映画のラストに表示されるエピローグの以下の一文がしみじみ思い出されます。

It was in the reign of George III that the aforesaid personages lived and quarrelled; good or bad, handsome or ugly, rich or poor, they are all equal now.
(それはジョージ三世の治世。描かれてきた人物たちは、戦いに生きた者たちも、善人も悪人も、美しきも醜きも、富める者も貧しき者も、今となっては皆、同じ)

このエピローグのメッセージには、人間、死んだら天国も地獄もなく、ただ等しく物質に返るだけ、人の一生は夢幻の如くなり、そんな無常観が感じられますね。